2023年05月02日
社会的関わりと健康の関係を考える

「人間は、社会的動物である・・・」という言葉があるように、人間の生活にとって社会的な関わりは最も重要なものの一つであり、長期的な孤独については、精神的な影響のみならず身体への悪影響も以前から示唆されています。
「一人暮らし」と言えば、以前であれば若い世代の人が、将来の夢を追いかけて・・・というようなポジティブなイメージを持つ方もいるのかもしれませんが、現在では、老若男女問わず「独居」と呼ばれるような社会的孤立に近い生活様式の割合の増加は世界的にも社会問題の一つとして挙げられるようになってきています。
実際に欧米諸国のなかでは、「孤独」や「孤立」という問題に対して、具体的対策を設けるための担当閣僚を任命しているような国も出てきていますが、日本では、民事不介入の考え方に象徴されるように、「家庭の事は、家庭で解決する・・・」というような、家庭依存社会的な考え方が浸透しており、実態がよくわからないというのが現状だと思います。
このような状況の中、オーストリア・ウィーン大学の研究チームが短時間での孤立と身体への影響についての実験を行いました。
この実験では、日常生活で重度の孤独または社会的孤立を経験していない18歳~33歳の女性被験者30人に対して、「8時間にわたり社会的接触を行わない日」「8時間にわたり食事をとらない日」「8時間にわたり社会的接触と食事の両方がない日」のいずれかを3日間にわたり、ストレスの指標となる心拍数や唾液中のコルチゾールレベルストレスをはじめ、気分、倦怠感についてのデータを測定するというものです。
この実験での「社会的接触」では、人との直接的な接触だけでなく、インターネットやスマートフォンへのアクセスだけでなく、人の写真が掲載された雑誌なども読むことも制限し、研究者との接触も無いという状況で行ったそうです。
この結果、8時間に及ぶ社会的な孤立は、「社会的孤立と食事を抜くことの間に顕著な類似性があり、いずれの状態もエネルギーの低下と疲労の増加を引き起こした。更に、食事を抜くことが文字通りエネルギーを失わせるのに対し、社会的孤立はそうでないことを考えると、食事を抜いた時と同程度の倦怠感とエネルギーの低下を引き起こすことは驚きです。」と報告しています。
以前から、孤独は、身体的にも精神的にも健康に悪影響を与えることが知られていますが、科学系メディアのScience Alertは、孤独による身体のエネルギーの減少について、ストレス反応によるものであるとし、孤独感が、身体に対するストレス反応を引き起こし、身体のホメオスタシス(恒常性維持)を維持するための反応が変化したことによる影響を示唆しています。
具体的には、孤独感は身体の自律神経系を刺激し、交感神経系の活動を増加させます。このために、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、血糖値が上昇させるのです。
また、交感神経系の活動が長期的に高まると、心臓や血管に負担がかかり、高血圧や心臓病などの疾患を引き起こすリスクが高まります。
一方、孤独感は副交感神経系の活動を低下させてしまいます。副交感神経系は、リラックスや回復を促進する働きがありますので、孤独感が長期的に続くと、副交感神経系の低下が続き、睡眠障害や免疫力の低下などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。
このように、孤独感が身体的な反応を引き起こすメカニズムは、身体の恒常性反応が変化することによって起こると考えられ、社会的つながりが欠如することで、身体は外部環境に対する適応反応を変化させ、ある種のバランスを取ろうとします。しかし、長期的に続く孤独感は身体に負担をかけ、健康リスクを高めることが明らかになってきました。
このように、孤独は単に「気持ち・・・」の問題ではなく、明確な健康リスクであることをあらためて認識したうえで、多くの人との関わりを中心にした大切にしたいライフを真ん中に置き直す必要がありそうですね。