2023年06月03日
短鎖脂肪酸と健康との関係を考える

社会の高齢化が進む中、認知機能の低下による日常的なQOLへの影響については、当事者のみならず家族も含めた多くの影響を及ぼし、今日の大きな社会課題の一つにもなっています。
また、認知機能については、多発性硬化症やパーキンソン病、アルツハイマー病など、神経系の炎症や変性といような原因によるものであることが解り始めているとも言われています。
そのような中、食物繊維が多く含まれる食事や不飽和脂肪酸、野菜の豊富な食生活によって、認知機能が向上するというような報告があるようです。
「この二つの、関係を結びつけるのが、腸内細菌叢である。」と考える研究者もあり多くの知見にたいする報告がでつつあります。
その一つが、2008年に国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村隆特任研究部長によって報告された、「多発性硬化症の動物モデルに抗生物質を投与することで、腸内細菌叢が変化し、中枢神経に起きた炎症が抑制されるというメカニズムによって多発性硬化症の軽症化がみられた」という内容です。
この結果は、脳腸相関も含めた腸内細菌叢と脳内炎症を起因とする神経疾患との関係についての研究分野を盛んにさせた事例のひとつとも言われています。
研究に携わった、山村部長は多発性硬化症のような脳内炎症による症状が欧米に対して少なかった状況が、過去40年間に約20倍に増えている事などに着目し、従来型の和食に多いとされていました、精製していない穀物や豆、野菜などを中心とした食物繊維の多い食生活が欧米化してきたことで、腸内細菌叢の構造的変化が起こったことによって、増えてきたのではと考え、さらなる研究を進めています。
多発性硬化症のような脳内炎症に関わる症状については、免疫システムに大きな影響を受けると考えられています。
2020年に「米科学アカデミー紀要」で紹介された論文では、プロピオン酸や酪酸は、免疫が暴走しないよう、制御する働きがあるという内容も紹介されています
さらに、多発性硬化症患者については、プロピオン酸や酪酸の濃度が健常な人に対して、大きな減少がみられたという結果になっているということです。
また、パーキンソン病についても、8割に上る患者に便秘の症状があるということも言われており、発症や進行には、腸内細菌叢や食生活が関係している可能性があるとする研究も多くあります。
このパーキンソン病に関する研究でも、多発性硬化症同様、短鎖脂肪酸が健康な人よりも少ないことがわかっていますが、メカニズムについては未解明のところも多いとされています。
多発性硬化症やパーキンソン病のような、脳内炎症に関わる疾患について、腸管内でのプロピオン酸を中心とした短鎖脂肪酸に大きな関わりのあることが解り始めています。
もし、健全な腸内細菌叢を保つことで腸管内の短鎖脂肪酸を多くしていく事が、認知機能の低下の抑制につながるとしたならば、日常の食生活をシンバイオティクスやプレバイオティクス中心の発想に切り替えるという方法が、多くの皆さんが、「いま、すぐにでも出来る・・・」こととしてやってみるのはいかがでしょうか。
もちろん、プロピオン酸をサプリメントとして摂取するという方法も可能ということですが、多くのプロビオン酸が小腸などの消化管内で消化されてしまうため、腸内細菌叢に委ねる方が有効である・・・ということのようです。