2023年06月30日
何故、睡眠が必要かを考える

近年、睡眠に関する注目度が非常に高くなっている中で、日本人の睡眠の量が少ないことにも注目されつつあります。
その一方で、昭和の高度経済成長時代に良く使われた「寝る間も惜しんで・・・」という言葉は、現在と違い肯定的に捉えられていたようなイメージがあったことも事実です。
その大きな理由の一つとして、「寝ている時は、脳も寝ている・・・」と考えられていたことがあるのではないかと思います。
近年の研究では、睡眠時の身体の各器官の働きにおいて、脳と腸だけは覚醒時よりも活発に動くことが解ってきており、しかも、覚醒時とは異なる目的で活動していることが次第に解ってきました。
睡眠中に行われている、脳の重要な機能としては、様々な記憶の一時メモリーに入っている情報を、重要度に対して記憶の処理や整理、学習の強化、情報の統合などが行われていることが解ってきたり、睡眠中には創造性や洞察力が高まるという報告もあります。
夢も、その記憶の整理の過程が覚醒時の意識下に残っているものと考えられています。
近年では、レム睡眠やノンレム睡眠と様々なサイクルがあり、特にレム睡眠は、情報の整理や学習の強化に関与しているということも示唆されているなか、脳内の神経回路の再構築や修復が行われるという研究結果もあり、これにより、睡眠は脳のパフォーマンスや機能の向上に関与している可能性も指摘されてきつつあります。
そのような中、もっとも注目されつつあるのが、睡眠中の脳の洗浄機能と言われるような機能です。
私たちの体内には、様々な老廃物が蓄積していきます。その老廃物が蓄積してしまわないように、細胞に栄養を運んだり、細胞から排出された老廃物を運び出して処理するためのリンパ系というシステムが存在します。
そして、脳にもリンパ系と同じような役割をするグリンパティック・システムと呼ばれる働きがあることが解ってきました。
以前から、睡眠不足だったり睡眠の質が低かったりする人ほど、アルツハイマー病の原因のひとつといわれるアミロイドβ濃度が高いという報告があり、睡眠と老廃物除去の関連性が疑われてきました。そして、このグリンパティック・システムの清掃効率が、睡眠の質によって変化するのかも大きな関心事の一つでありました。
このグリンパティック・システムの名付け親であるロチェスター大学メディカルセンターのマイケン・ダーガー氏は、「深い睡眠状態”において、老廃物排出を促すグリンパティック・システムが最も効率的に働くことが実験によって明らかになったと同時に、心拍数が低くなるにつれて、清掃効果のある脳脊髄液の流れが大きくなることも確認された」と述べています。
また、加齢によって、深いノンレム睡眠に入ることが難しくなることも知られていますが、マイケン・ダーガー氏によれば、深い、ノンレム睡眠時にあらわれる、ゆっくりと一定した脳活動(デルタ波)と心肺活動が、脳の老廃物排出プロセスに最も効率がよいことが実験により明らかになったことで、睡眠の質の向上がグリンパティック・システムによる清掃機能の向上につながり、加齢・睡眠の質・アルツハイマー病の3つの関係性に於いて、臨床的に大きな意味を持つものとして関心を集めつつあります。
睡眠の大切さ・・・については、疲れやすいなど・・・感覚的な理解だけでなく、睡眠時における様々なメカニズムを理解することで、睡眠の重要性や恩恵がイメージできれば、睡眠に対する意識も変化してくるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 13:28│Comments(0)
│身体のしくみ