2023年07月22日
ポストバイオティクスという考え方

プロバイオティクス、プレバイオティクスと・・・「○○○○バイオティクス」という言葉を近年になって、沢山見かける・・・という気がしませんか?
そもそも、プロバイオティクスという言葉は、1989年にイギリスの微生物学者フラー博士によって提唱された言葉で、「宿主に対して、有用な働きをする生きた微生物」を示す言葉です。
その後、そのプロバイオティクスのみが宿主にとって有用な働きをするのではなく、元々定着している腸内細菌の状態を良くすることが大切であり、さらには有用な働きをする微生物のエサとなるような、食物繊維やオリゴ糖などの難消化性の糖類が注目されるようになり、プレバイオティクスという言葉が使われるようになってきました。
さらに、プロバイオティクスとしての有用な微生物と、その栄養源であるプレバイオティクスの両方を摂取することで、有用性が増すことが解ってきたということがあり、プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を併せた・・・という意味のシンバイオティクスという言葉が出てきました。
この微生物の有用性については、大きく分けて二つのメカニズムによって得られると考えられています。
一つは、微生物そのものが、消化管内などの器官に対して、直接働きかけることで何らかの作用をするという考え方です。言い換えれば微生物自身が、体内に仕掛けられたスイッチを入れるようなイメージです。
少し、わかり難いかもしれませんが、一部の微生物については生きて腸まで届かないことがあったとしても、一部の免疫システムに対してはスイッチを入れることが出来るような作用があるということは、そのようなメカニズムによって説明できるとされています。
もう一つは、微生物自身が生きた状態で活動することで、代謝された物質が身体に及ぼす有用性です。
例えば、乳酸菌であれば、主に乳酸を代謝し、ビフィズス菌であれば乳酸や酢酸が代謝されるために、その物質が吸収されたり、特定の器官内でその成分が優勢になるというメカニズムによって得られる有用性です。
市販されている多くのプロバイオティクスを利用した食品には、乳酸菌もしくはビフィズス菌が使われていることが多いです。これらの代謝物である酸は、皆さんもご存知のように腐敗を抑える効果がありますので、腸内腐敗によって体内に発生してしまう有害物質を抑えることが出来ます。
便やおならの臭いの違いは、このような腸内腐敗の影響を大きく受けるとされています。
ビフィズス菌は、酢酸を代謝する・・・のだから、お酢を飲めばいいじゃないか・・・と思う方もいるかと思いますが、食べ物として摂取したお酢は、腸に届くころには、消化されて、様々なアミノ酸に分解されていますので、腸内腐敗の抑制に直接的に貢献することはできません。
つまり、「腸管内の微生物に頼らざるを得ない物質・・・」が沢山あるのです。
「腸活」や「育菌」という言葉が、注目されるようになり、この物質にも注目が集まり出したことで、ポストバイオティクスという言葉が使われるようになったのです。
この「ポスト」という言葉には、微生物のその先・・・という意味合いがあるのではないでしょうか。
このポストバイオティクスですが、微生物の種類同様、非常の種類が沢山あり、まだまだ未知の領域が沢山あることも事実です。
その一方で、微生物の代謝物にも関わらず有用でないものを出す種類の微生物が多いということも知っておく必要があります。
その、代表的なものが、「日和見菌」とか、「中間的な菌」に分類される微生物です。
この微生物たちの特徴は、「周りの状況をみて・・・強い方につく・・・」ということです。
人間でも、「忖度するために場面によって・・・言ったり、やったりすることが違う・・・」というたちの悪い人もいるかもしれませんが、「言ったり、やったりすること・・・」、つまり、代謝する物質が状況によって違う・・・ので、なかなか手強い相手になる事もあります。
また、微生物の種類によっては、特定の疾患の発症や重症化に関与しているものがあることも事実で、実際、このような微生物やその代謝物に関する研究も日々行われています。
理化学研究所生命医科学研究センターなどの研究グループは、肥満・高血糖を招く代謝物を産生する腸内細菌についての研究を行い、その腸内細菌の特定とメカニズムに対しての報告を行っています。
肥満や糖尿病などの代謝機能に関わる疾患と腸内細菌の関わりについては、以前から知られていましたが、この研究によれば、肥満・高血糖マウスから単離されたLachno-spiraceae科という細菌種に属しているFusimonas Intestini (FI)という細菌に着目し、肥満・糖尿病患者と健常者各34人ずつの糞便検体を調べたところ、 肥満・糖尿病患者ではFIの保菌率が健常者よりほぼ2倍も高く、菌数が多いほど、 空腹時血糖値や肥満度(BMI) が高かったという報告をしています。
さらに、マウスをつかった実験で脂質代謝物の変化を調べたところ、 大腸菌とFI定着マウスは、 トランス脂肪酸のエライジン酸、飽和脂肪酸のパルミチン酸など、 肥満・高血糖を悪化させる代謝物を多く産生し、中でも、 FIが産生するエライジン酸は腸管バリア機能に影響を与え、肥満や高血糖を悪化させることというメカニズムについて明らかにしたとしてます。
この、FIの代謝物であるエライジン酸は、「有益な・・・」という定義からすれば、ポストバイオティクスということにはならないかもしれませんが、これから消化管内の共生微生物による様々な代謝物に注目が集まり、解明されていくことで健康の維持向上に対しての新しいアプローチの可能性が広がってくるのかもしれません。