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2023年09月22日

ポストバイオティクスの可能性を考える

ポストバイオティクスの可能性を考える


 最近、「短鎖脂肪酸」というキーワードを耳にすることはありませんか。やせ菌とかデブ菌と言われるような腸内細菌の存在が次第に明らかになり、そのメカニズムとして注目されたのが、短鎖脂肪酸の一つである、酢酸や酪酸です。

 例えば、酢酸は、「お酢」として馴染みのある成分ですが、腸管内で存在する「お酢」というのは、食事などで、口から入ったものがそのままの組成を保ったまま、腸まで届くわけではありません。よって、腸管内に存在する酢酸は腸内細菌が産生する代謝物のみが存在するということになります。
 酢酸を産生する、代表的な腸内細菌がビフィズス菌です。腸管内での酢酸は脂肪燃焼に対する効果が期待できるとされていますが、この酢酸もビフィズス菌が食物繊維などのプレバイオティクスを直接摂取できるかというと、そうとはいかない部分もあるようです。

 プレバイオティクスには、オリゴ糖などの糖質に分類されるモノと食物繊維のように炭水化物に分類されるものがありますが、食物繊維に於いては糖化菌と呼ばれる腸内細菌によって代謝され糖に変化することで、はじめてビフィズス菌のエサになったりするのです。

 このように、ポストバイオティクスの産生には、リレーのような複雑な循環の仕組があって初めて成り立っている現状があるのです。

 先ほどの事例のように、プレバイオティクスを利用して乳酸菌やビフィズス菌が乳酸や酢酸を代謝物として産生するだけでなく、乳酸菌が産生した、乳酸をクロロプロピオン酸酸性菌がプロビオン酸を産生したり、ビフィズス菌が産生した酢酸を利用して酪酸産生菌が酪酸を代謝物として産生するというような循環の仕組によってなりたっているのです。

 このような仕組みゆえに、この循環がうまく回るためにも腸内細菌の多様性が必要ということになります。

 ポストバイオティクスとして、有名なのが短鎖脂肪酸と言われる、酪酸、酢酸、プロビオン酸です。

 これらのポストバイオティクスは、それぞれに期待される健康効果が専門家によって研究が進んでいます。

 酢酸は、有害菌の増殖を防ぎ、腸内腐敗を抑える効果のみならず、脂肪細胞に過剰なエネルギーを蓄積しないような作用があったり、酪酸の元にもなると言われています。

 その酪酸は、腸の上皮細胞の表面を覆う粘液をつくり出すことで、大腸バリアの強化を促すことが知られており、病原体の排除や抗体の産生にも大きく関わっていると言われ、免疫システムの向上にも大きく寄与していると言われています。

 また、プロビオン酸は、腸管の蠕動運動を促進し、スムーズな排便にも欠かせない物質とされています。

いままでは、ポストバイオティクスと言えば、短鎖脂肪酸の仲間と言われるこの3つと言われてきましたが、近年の研究ではさらに多くの物質が注目され始めている様なのです。

その一つが、γ-アミノ酪酸(GABA)です。GABAは、ストレスの緩和や血圧の上昇を抑える効果などで知られており、食品などにも使用されている成分で、脳のなかで産生される神経伝達物質のイメージが大きいのかもしれませんが、これも腸内細菌のポストバイオティクスになります。

 さらに、HYA、αケトA、ウロリチンなども近年注目されつつあるポストバイオティクスになります。

 HYAは植物油脂の主要成分であるリノール酸が腸内細菌による代謝を受けて生成される機能性脂肪酸で、食事由来の脂質が腸内細菌によって代謝され、HYAなど複数のリノール酸代謝物として腸管に存在することが解りつつあり、消化ホルモンの分泌促進や血糖値の上昇抑制についての期待が寄せられています。

 また、αケトA についてはオメガ3系の脂肪酸などを原料に腸内細菌が産生する代謝物で、マクロファージなどに作用することで抗炎症作用が期待されているポストバイオティクスの一つです。

 さらに、ウロリチンはナッツ類やイチゴなどのベリー類に多く含まれるエラグ酸というポリフェノールをもとに腸内細菌が産生すると言われており、その作用として、筋肉機能の改善やアンチエイジング効果が期待されている成分です。
 このウロリチンについては、具体的にどの腸内細菌が産生しているのかも含め、メカニズムが明らかになっていない部分が多いようですが、ウロリチンをつくれない人もいることはわかっているようです。

 ポストバイオティクスという言葉のなかった頃から、腸内細菌の代謝物としてよく知られているのがビタミンBです。
 口内炎の原因の多くは、ビタミンB不足と言われいていますが、ストレスが原因で口内炎になってしまうのも、脳腸相関の影響によってストレスで腸内環境が乱れてしまい、結果的にビタミンBの代謝量が不足するからだと考えられています。

 昔から、必須栄養素という言葉がありますが、食事から摂取しなければいけない栄養素以外については、腸内細菌が知らない間に・・・つくってくれていると考えても良いのかもしれません。

 近年、注目が集まっているポストバイオティクスという考え方は、実は「古くて、新しい・・・」分野として多くの期待が寄せられています。

 ただ一つ言えることは、様々なポストバイオティクスの恩恵を受けるには、腸内細菌の多様性とプレバイオティクスを中心に考えたバランスの良い食事は欠かせないようですね。





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