2023年10月05日
腸内細菌叢の多様性を考える

近年、腸管内における共生微生物の多様性については、健康との関係が明らかになりつつあり、特にメンタルヘルスの領域において、様々な症状と腸内細菌叢の多様性に関して、高い相関関係があることも解ってきています。
このような、ことは個々の腸内細菌叢について言えることですが、このような腸内細菌叢の様子については、個々の違いだけでなく、民族によっても異なるということなのだそうです。
健康な日本人と世界11ヶ国で腸内細菌叢をメタゲノム解析による研究報告では、日本人の腸内細菌叢は地政学的に近い中国とも大きく異なっており、ある種独特の腸内細菌叢を持っていると指摘されています。
腸内細菌叢の民族による違いについては、様々な仮説はありますが、歴史的なものも含めた食文化と大きく関係していると考えられています。
この中で、「歴史的な・・・」という部分については、ヒトを含む多くの生物にとって腸内細菌叢は、遺伝的に・・・というよりも、分娩や授乳、種によっては食糞という習慣も含め物理的に引き継がれているということです。
腸内細菌も生物の一つになりますので、その生物の代謝の仕組や嗜好に適応したものが生き残り反映するということになります。
つまり、腸内環境と言われる腸管内の状況によって、おのずと腸内細菌の勢力図が決まってくるとともに、その勢力を維持したいために、脳腸相関の仕組をつかい、宿主の食の嗜好をコントロールすることで自らの勢力を維持拡大していくという巧妙なメカニズムの結果ともいえます。
このようなメカニズムのなか、「独特の腸内細菌叢」をもつ日本人にとって、大きな関わりがあるとされているのが、和食という文化も含めた発酵食品を日常的に摂取する習慣に大きく関係してるのではと考えられています。
このような、発酵食品を多く摂取している日本人の腸内細菌叢の特徴として言われているのが、善玉菌と呼ばれるグループの一つであるビフィズス菌が多いことだとされています。
このビフィズス菌は短鎖脂肪酸の一つである酢酸を産生することで知られており、酢酸の効果としての腸内腐敗を抑えたり、酪酸やプロビオン酸などの短鎖脂肪酸の産生にもつながるとされています。
また、海苔やワカメなどの海藻類を食物繊維として分解する酵素遺伝子を持っていることも日本人の特徴とも言われています。
しかしながら、寿司を中心とした日本食の世界的普及によって、日本人以外の人たちも最近では、海苔などの海藻類を食べても大丈夫な状況になってきているという話も耳にします。
これらの事からも、今後、特定の腸内細菌とその増殖に関わる食品との関係がより明確になってくれば、食習慣を意識的に変化させることで、「理想の腸内細菌叢」を手に入れることも不可能ではないのかもしれません。
近年、「やせ菌」として注目されているアッカーマンシア・ムチニフィラ菌という菌があるのですが、この菌株については、殆どの日本人の腸内にはいないとされています。
その一方で、日本人の9割が保有していると言われているブラウディア菌が「やせ菌」としての働きをしてくれるそうで、研究によれば、このブラウディア菌の割合が多いほど肥満や糖尿病のリスクが低く、全体の6%を越えるとBMIも標準からやせ型に分類される割合が急激に高くなるとの報告があります。
理想的な腸内細菌叢をつくるのには、理想的な食事が欠かせないことは、わかると思いますが、食欲も含めた食の嗜好は、現在の自身の腸内細菌に操られている・・・という、非情な無限ループのようなものが存在しているとも言われています。
腸内細菌叢を変化させていくには、特効薬のような食事を数回したから良くなるようなものではありません。
「理想の腸内細菌叢」の獲得には長い時間をかけて「摂り過ぎているな・・・」と思うものを少しずつ減らしていくと同時に、現在の腸内細菌ともうまく付き合いながら、足りないものを意識的に補っていくしかないのかもしれません。