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2023年10月13日

食事療法と腸内細菌叢

食事療法と腸内細菌叢


 「身体は、食べたもののみでつくられる・・・」という言葉がありますが、体調を整えるために食事の内容について、様々な工夫をすることは珍しいことではありません。

 特に、糖尿病などの疾患を抱えた方々にとっては、糖質そのものを制限したり、食物繊維などを食事に上手く取り入れることで、血糖値の急激な上昇を抑制するための取り組みなどもその一つと言えるかと思います。

 また、ケトン食と呼ばれる高脂肪、低炭水化物に加え、適度なタンパク質という組み合わせによる栄養学的アプローチは、1920年代から難治性てんかんの治療法として取り入れられ、その後、肥満や代謝性疾患などの治療効果に対する期待が高まったこともあり、現在も多くの人が取り入れているそうです。

 このケトン食では、高脂肪と言っても油脂であれば何でもいいという発想ではなく、飽和脂肪酸を抑え、ココナッツオイルや亜麻仁油、エゴマ油、青魚に多くの含まれるオメガ3系の多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取し、トランス脂肪酸などの油脂を控えるなど、脂肪の種類や炭水化物の種類によって身体に対する影響の違いを考慮するような考え方も進んできています。

 例えば、同じ脂肪と言っても、飽和脂肪酸が腸内細菌叢の多様性の低下と、リポポリサッカライド(LPS)と呼ばれる、炎症の原因となる細菌の菌体成分の増加に関係していることが解っていると同時に、LPS濃度が軽度認知障害と腸内細菌の代謝産物濃度と相関があるとも言われていますので、このような食習慣が健康に対して、効果的で安全な方法であることを示す報告がある一方で、腸内細菌叢に対する影響について重要な問題を提起する研究者もいます。

 イタリアパドヴァ大学のAntonio Paoli氏もその一人で、単に体重減少や治療効果の側面だけでなく、腸内細菌叢にも着目した上で、様々な影響や効果をヒトでの臨床試験などを通じ長期的に行うことの重要性を訴えています。

 また、名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野の田村高志講師、若井建志教授らの研究グループは、約 8.1 万人のおよそ 9 年間の追跡調査によって、日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価した結果、男性の低炭水化物摂取および女性の高炭水化物摂取が全死亡リスクとがん死亡リスクを高め、女性の高脂質摂取が全死亡リスクを下げる可能性があるという報告をしています。

 炭水化物と脂質の摂取制限が、体重減少や血糖値の改善などを促すというような健康効果に対する有効性についての報告もありますが、このような極端な食事習慣がもたらす長期的な生命予後(長生きできるかどうか)については明らかではありません。

 その一方で、欧米をはじめとする諸外国での研究事例では、過度の炭水化物と脂質の摂取制限が死亡リスクを高める危険性を指摘する報告も多く、低炭水化物食と低脂質食がもたらす短期的な効果と長期的な生命予後に対する影響との間で矛盾もありますが、一日あたりの炭水化物摂取量が多く、脂質摂取量が少ない日本人を含む東アジア人に関しての知見はほとんどないのが現状だと言われています。

 低炭水化物ダイエットについても炭水化物を少なくすることで、食物繊維が足りない状態になり、便秘などの便通異常から体調に異変をきたすケースも耳にします。
このように食事療法と言われるものが多くありますが、いずれも短期的な健康効果のみでなく、長期的な身体への影響を考える必要があるのかもしれません。    

 その長期的・・・という視点には脂肪、炭水化物、タンパク質という大きな枠組みだけではなく、もっと細かい栄養素単位での食材を取捨選択していきながら、腸内細菌叢の状態を見守っていくことが重要な視点になってくるのかもしれません。





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