2023年11月25日
ネグレクトと腸内フローラの関係を考える

ネグレクトは、子ども・高齢者・障害者などに対して、保護、世話、養育、介護などを怠り、放任する行為として、暴力などの身体的なものや、精神的虐待さらには性的虐待と並ぶ虐待のひとつで、日本では「育児放棄」を意味する傾向が強いとも言われています。
このネグレクトは、決して軽い虐待ではなく幼少期の長期にわたる影響は、うつ病や統合失調症などの精神疾患につながるとも言われており、その影響は成人期に発症するケースもあるようです。
さらに、幼少期には脳機能が環境によって変化しやすい時期とも言われており、それゆえに脳の発達には重要な時期であると考えられています。
また、多くの知見で、精神疾患患者では下痢や便秘等の消化器症状の併発率が高く、ディスバイオーシスと言われるような腸内環境の破綻との密接な関係に関心が寄せられており、消化器系からのアプローチによるメンタルヘルスの向上についての可能性への期待が高まっているとも言われています。
そのような中、藤田医科大学の講師國澤和夫氏のマウスを使用した幼若期でのネグレクトと腸内細菌叢の変化、さらに精神疾患に関連した行動異常についての研究報告について、ご紹介させていただきます。
この実験では、幼若期のマウスに対して社会的隔離によるストレスを4週間にわたり与えたグループと通常の飼育条件でのグループでの2つに分けて行っています。
その結果、隔離され幼少期にストレスを加えたグループについては、社会性の低下、空間記憶障害、意欲の低下等の精神疾患に関連した行動変化が認められたというのです。
また、隔離されたグループのマウスの糞便中の腸内細菌叢を解析した結果、アッカーマンシア・ムシニフィラという腸内細菌が著しく減少していたというのです。
このアッカーマンシア・ムシニフィラは、消化管内の粘液成分であるムチンが単一栄養源としていることで知られていることから、粘液産生細胞である大腸胚細胞についても調査したところ、その大腸胚細胞が著しく減少していることが解りました。
さらに、その隔離マウスに対して大腸胚細胞の分化増殖を促進させるレパミピドを処置した結果、精神疾患に類似した異常行動の緩解が見られたというのです。
隔離ストレスマウスは、大腸胚細胞の減少のみでなく、腸内細菌叢が産生するシスチンの減少も見られていましたが、レパミピドの投与によって血中のシスチン量が優位に増加したということも確認されたというのです。
この研究により、幼少期のネグレクトなどによる社会的隔離によるストレスが、消化器官内の胚細胞の減少や腸内細菌叢の変化を招くことで、タンパク質を構成するアミノ酸の1つでもあるシスチンの減少を招き、その結果精神疾患の発症に関与する可能性が示唆されました。
脳腸相関という言葉が一般的になり、食生活からのアプローチによるメンタルヘルスの向上に寄与する可能性が、実際のメカニズムの解明によって具体的に示されたということは、益々複雑化する様々な社会課題の解決において、腸内フローラの大切さは切っても切り離せないテーマになってきたような気がします。