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2023年12月01日

幸せホルモン「セロトニン」とレジリエンス

幸せホルモン「セロトニン」とレジリエンス


 レジリエンスは、「困難をしなやかに乗り越え回復する力」ともいわれ、「回復力」「復元力」「耐久力」「再起力」「弾力」などと訳されており、精神的なタフネスという意味合いを持っている事などからビジネスの世界でも注目が集まっています。

 また、鬱症状などのメンタルヘルスの回復に対して、セロトニン再取込阻害薬といわれるような、脳内のセロトニン濃度を増やすような薬が選択されることがありますが、実際にはセロトニン濃度の向上と鬱症状の改善のメカニズムについては、よくわかっていないのが現状だと言われています。

 とはいえ、幸せホルモンと言われるセロトニンが目標達成のプロセスにおける努力行動の過程で、「きっとうまくいく・・・」という楽観と、「どうせだめだ・・・」という悲観の調整や、呼吸や睡眠、認知など「こころ」と言われる領域を中心に幅広い生命活動に関与していることがわかっており、多くの研究者が関心を寄せています。

 沖縄科学技術大学院大学 神経計算ユニットグループの宮崎勝彦リーダーは、このセロトニンと目標達成のための努力行動に過程での、セロトニンの役割について、ラットを使用した実験について報告をしています。

 この研究では、ラットの餌の獲得の状況の変化に対して脳領域のセロトニン神経活動をリアルタイムでモニタリングするという方法で行われました。

 その結果、「ラットが餌場に鼻先を入れて、出てくるのはいつかいつか・・・と辛抱強く待っているという状況では、セロトニン神経活動が持続的に高まることがわかった」というのです。

 そして、セロトニン神経を活性化することで、餌が出てくるまで待っている時間が優位に伸びた、ともされています。

 さらに、これらの行動を数理モデルのシミュレーションを行った結果、セロトニン神経を活性化させることで将来報酬の確信度が向上し、「きっとうまくいく・・・」というような楽観的傾向が高まったということも示されたというのです。

 この実験を行った、宮崎氏はこのようなセロトニンの働きに対して、「私たちが生きていく上で大切な、将来のために困難に立ち向かうチカラや、レジリエンスを高める事にも深く関係しているのだろうと考えています。」と述べています。

 さらに、同じ努力行動であってもその目的によってセロトニン神経活動によるものなのか、それ以外の神経活動によるものかによってメカニズムとその行動結果について異なる可能性についても言及しています。

 目的が「自分がやりたいもの・・・」のように喜びにつながるよなポジティブが動機によるものなのか、罰回避行動と言われるような、試験勉強や自分の立場が悪くならないために苦手な業務に対峙するというようなネガティブな動機のケースでは「やる気」といいわれる活動そのものの持続性が異なることは感覚的にわかっている方も多いかと思います。

 このやる気の持続性が、同じ報酬に対して活動を低下させるドーパミン神経活動によるものと報酬そのものではなく報酬のプロセスに対して活性することで、繰り返しによる活動の低下がみられないセロトニン神経活動とでは異なるというのです。

 幸せと満足とは違う・・・という考え方がありますが、この二つの違いについて「満足」には際限のない欲望のようなものにつながっているゆえにレベルが上がっていかないと満足度については、良い方向に変化しない状況に於いては満足度が下がってしまうと考えられています。
 ひょっとすると、この二つの違いは観念的な違いではなく、セロトニン神経活動によるものとドーパミン神経活動によるものの違いによって説明がつくのだとすれば、「ものごとに対する考えかた・・・」というアプローチのみでなく、栄養素であるトリプトファンから幸せホルモンのセロトニン、・・・さらに睡眠ホルモンのメラトニンという生体メカニズムとしての循環に着目することで、レジリエンスの向上につながる可能性が示唆されたと考えることも出来るでしょう。

 今回の研究結果は、「夢や目標を成し遂げる・・・」というような「なりたい自分」が明確であればあるほど、セロトニン神経活動が活発になり持続可能なこころの活力につながるという可能性が示唆されたとともに、腸管での産生量が多く、脳腸相関に密接に関係していると言われる幸せホルモンのセロトニンに対する関心がますます高まってくるのかもしれません。




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