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2024年01月05日

認知機能と腸内細菌叢

認知機能と腸内細菌叢

 加齢による認知機能の低下は、本人のQOLのみならず周りの人たちへの生活への影響の大きさもあり、認知機能低下の予防や改善については多くの研究者を含め優先的社会課題の一つと考えられています。

 また、日本国内では、65歳以上の高齢者のうち、認知症と診断された人と、認知症ではないが、以前に比べて認知機能が低下してきており軽度認知障害といわれる人とを併せると約3人に1人とされているのが現状です。

 そのような中、脳腸相関など脳と腸や腸内の共生微生物である腸内細菌との関係と認知機能に関心をもつ研究者も多くなり、2011年には、「認知症の有無によって腸内細菌叢が大きく変化する」という知見についての発表があり、その当時は未解明であった認知症の前段階である軽度認知障害と腸内細菌との関係性についても徐々に解明されつつあるそうです。

 国立長寿医療研究センターもの忘れセンター客員研究員佐治直樹氏によりますと、認知症の有無によってエンテロタイプと呼ばれる食生活や生活習慣によって分類される腸内細菌叢の状態との相関関係について様々なことが分かってきたというのです。

 このエンテロタイプとは、性別や人種に関係なく、食生活や生活習慣によって分類され、バクテロイデス(Bacteroides)属が多いエンテロタイプⅠ型、プレボテラ(Prevotella)属が多いエンテロタイプⅡ型、そしてルミノコッカス(Ruminococcus)属やその他の菌が多いのをエンテロタイプⅢ型と3つに分かれています

 研究では、認知症がある人と認知症のない人を比較すると、認知症のない人のグループでは、45%がバクテロイデス属の多いエンテロタイプⅠ型だったのに対して、認知症のある人のグループでは、エンテロタイプⅠ型は15%で、種類の分からない菌が多いエンテロタイプⅢ型が85%を占めているという結果になりました。

 つまり、認知症の人にはエンテロタイプⅠ型の割合が少なく、エンテロタイプⅢ型の割合が多いというようにエンテロタイプが異なっていることが分かったというのです。

 また、「認知症の特効薬はないですか?」と聞かれれば、「残念ながら、現時点ではありません」という回答にならざるを得ません。
しかし、「予防につながる生活習慣はあります・・・。その一つが食事です。」腸内微生物叢や腸内細菌の代謝産物は食事と切り離せないことがその理由になります。

 これらの関連性に対するメカニズムについても、腸内細菌の代謝物に注目し、さらなる研究が進んでいます。

 腸内細菌は、大腸に届いた栄養源を代謝する過程で多種多様な代謝産物をつくります。どんな代謝産物が産生されるのかは、食事内容や腸にすんでいる腸内細菌によって異なります。
 代謝産物の中には腸内で有害菌の増殖や腐敗産物産生を抑制する良い働きをする酪酸や酢酸のようなものもありますし、腸内環境悪化の指標でもあり、おならの悪臭の原因で腐敗物質ともいわれているインドールやスカトールなどもあります。

 最近の研究では、腸内細菌の代謝産物は認知機能と関係性は大きく、認知症の人の便では、アンモニア、p-クレゾール、インドールなどの、いわゆる有害菌が産生する代謝物の濃度が高く、逆に、認知症ではない人においては、それらの物質はあまり見られないという報告もあります。

 また、認知症の人には少なく、認知症ではない人に多かった代謝産物は乳酸であるとの報告もあります。

 さらなる、統計学的な解析では、アンモニア濃度が1標準偏差(SD)上がると認知症リスクは1.6倍に高まり、乳酸濃度が1SD上がると認知症リスクは約0.3倍に抑えられるということも分かってきました。

アンモニアと乳酸について、少し補足しておきます。代謝物質の一部は腸管から吸収されて血液循環系を介して全身を巡りますが、血中アンモニア濃度が高くなると、認知障害やアルツハイマー病のリスクが高まるという研究報告もあります。

 有用菌によって産生される乳酸は、有害菌の増殖を抑えて腸の運動を活発にします。そして、食中毒菌や病原菌による感染予防や発がん性を持つ腐敗産物の産生を抑制する腸内環境をつくることが知られています。

 身体の健康には、腸内細菌叢における有用菌の占める割合を増やすことが重要です。腸内細菌の代謝産物と認知症の関係においても、有用菌を増やし有害菌を減らすことが重要であるということが見えてきました。

 また、高齢者を対象とした興味深い研究もあります。この研究は、食事を日本食パターン、動物性食品パターン、高乳製品パターンの3種類に分類し、認知症の関連を追跡したものです。

 東北大学で2016年に報告された内容では、日本食パターンの度合いが高い人で認知症発生リスクが低いとしていましたが、さらに、食事スコアを算出するにあたって加点する食事内容を、穀類・味噌・魚介類・緑黄色野菜・海藻類・漬物・緑茶を基本とする「伝統的日本食」と、これに豆類・大豆製品・キノコ 類・果物を加えた「現代的日本食」、さらにコーヒーを加えた「コーヒーを含む日本食」の3つに分類した結果によると、コーヒーを含む日本食のグループが優位に認知症に関して低リスクであるという報告がなされたいうのです。

 佐治直樹氏によれば、コーヒーについては世界中で認知機能に好影響とする研究がありますが、また、認知症のリスク評価には、外出や友人との交友などの社会生活も大きく影響することからしても、「コーヒーを飲みに友だちと出かける」という行動と、良好な腸内細菌叢との相乗効果による可能性についての指摘をしています。

 本人のみならず、周りの方々へのQOLに対して大きな影響をもつ認知機能・・・、脳腸相関という概念を取り入れた、腸内細菌叢からのアプローチと、孤立しないことを意識した、社会生活を大切にしていく・・・という双方からのアプローチは多くの面で大切なのかもしれません。






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