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2024年03月01日

睡眠のリスクをあらためて考える

睡眠のリスクをあらためて考える


 日本人の睡眠時間は、OECD33ヶ国中最下位、米国の調査では日本での睡眠不足による経済損失は15兆円以上との試算もあります。つまり、睡眠不足は健康への影響のみならず経済的な損失にもつながることが分かってきました。
 つまり、一人ひとりの睡眠不足が、積み重なって大きな日本経済の損失につながっていると考える必要があるのかもしれないというのです。

 理想の睡眠を科学の視点で見ていくと8時間だと言われていますが、時間が満たされればいいという訳ではありません。
 
 中途覚醒といわれる、睡眠途中で覚醒状態にならない「質」と言われるものだけでなく、毎日、同じ時間に就寝し、同じ時間に起きるという「規則正しいリズム」も理想の睡眠には必要と言われています。

 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史氏によりますと、睡眠不足の一番のリスクは眠気だとしています。

 そもそも、睡眠と眠気は異なる概念と考える必要があり、メカニズムも異なるようです。睡眠は身体や脳が休息や回復を目的として意識的に休む状態であり、体内時計の仕組からしても本来の姿としても夜間に就寝するような仕組みになっています。
 一方、眠気は身体が睡眠を必要とするサインであり、睡眠不足や疲労、ストレスなどが原因となります。眠気があると注意力や作業効率が低下する可能性がありますので、眠気を感じた場合は、十分な休息や睡眠をとることが重要ですが、その状態が常に睡眠不足によるものでは無く、ストレス、または病気などの睡眠以外の原因のこともあり、睡眠を取ることでそれを解消できない場合もあります。

 睡眠不足が眠気を誘うということは言うまでもありませんが、連続的に睡眠をさせない状況をつくることで、生命の危機に陥るほど睡眠は大切だということも解ってきました。

 ある研究では、1日4時間の睡眠を1週間から10日連続した場合、脳のパフォーマンスの低下によって、日本酒で2合程度の飲酒をしているのと同じ状態と考える必要があるというのです。

 そう考えれば、時間当たりの仕事の処理能力の低下やミスの誘引のみでなく、感情のコントロールが出来なくなりますので、「嫌な奴・・・」になる事で、周りの人たちの仕事や人間関係にも影響を及ぼします。
 ひょっとしたら、寝不足によってイライラやハラスメント的な行為に及ぶ可能性も否定できないと考えれば、睡眠をないがしろにすることの社会的なリスクは見過ごせないものと考えるのは当たり前としなければいけないのかもしれません。

 熊本県が睡眠の状態をモニタリング調査した実験では、睡眠の質やリズムを改善することで、体重の減少や腹囲の減少がみられるなどメタボリックシンドロームに対しての効果や認知症のリスクの低下もみられたという報告もあります。

 ここで、大切なのは、様々なデバイスの普及、発達によって睡眠の可視化ができるようになってきたために、様々なアプローチの可能性が生まれてきたことです。

 健康にとって大切な、食事・運動・睡眠ですが、睡眠の重要性がますます高まってきたと言えるのではないでしょうか。
 医学の世界では「0次予防」という言葉がありますが、身体の恒常性も含め、通常の状態を大切にすることは重要と考えられています。現在、日本睡眠学会では、今後特定検診の項目に「睡眠」を取り入れることを目指していると述べているほど睡眠は大切なことなのです。

 世界で最も睡眠時間の少ない国の一つである日本では、まず、「睡眠」ということに関心を持つことから始めることが必要としています。

 それには、睡眠に関する理解とその理解にともなう環境づくりの実践です。

 睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があることは多くの方がご存知かと思いますが、レム睡眠は睡眠の後半に起こることからすれば、睡眠時間が少ないことは、レム睡眠が殆どなくなるという考え方をする必要があります。
 
 東京大学の林悠教授によりますと、レム睡眠の時だけ、脳の血流量が約二倍になる事が実験で明らかになってきました。
 毛細血管は、物質交換の機能を持っています。特に脳の場合は、神経細胞が酸素や栄養を受け取り、二酸化炭素や老廃物を返すというような受け渡しの場になりますので、血流が2倍に上がるということで、脳のリフレッシュが行われているとすれば、認知症の原因の一つとして脳に老廃物が溜まることとされていることからしても、十分な睡眠時間の確保によるレム睡眠の向上は、認知症のリスクの低下にもつながる可能性もあるというのです。

 さらに、睡眠にとって理想の環境を整えることも大切です。良質な睡眠には、「静か」、「暗い」、「朝まで適温である」この3つが重要とされています。人間も動物である以上、気温に対するストレスや、そのストレスに対応するための体温調節が必要になり、自律神経の一つである交感神経を刺激し、脳の覚醒反応を引き起こしてしまうことで睡眠の質が下がるとも言われています。
 だからこそ、寝具の見直しや、睡眠時もエアコンなどを上手に使い、室温を含めた環境を整えることが、睡眠の質の向上に大きな役割をしていることも頭に入れておく必要があります。

 眠気が引き起こす様々なリスクを考えれば、睡眠は余った時間にするもの・・・ではなく、睡眠を生活の真ん中に置いて考える必要があるのではないでしょうか。

柳沢正史氏によれば、「睡眠は家賃みたいなものなので、滞納すれば大変なことになってしまう・・・。」という認識が必要なのです。





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