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2024年03月16日

土があるのは地球だけ・・・

土があるのは地球だけ・・・


 「土が地球だけにある」という表現は、地球上の生物圏において土の存在が特別であるという意味ではなく、他の惑星や天体にも、地表を覆う固体の表土や地殻が存在することが考えられます。しかし、地球の土壌は他の天体と比較して非常に複雑で多様な性質を持っていることからの表現とされています。

 また、地球の土壌は生態系において極めて重要な役割を果たしていると考えられており、植物の成長に不可欠な栄養素を供給し、水や空気を保持し、地球上の生物の生息地として機能しているという理由から、土壌は水循環や気候変動などの地球システムの一部と考える必要もあるのです。

 つまり、「土が地球だけにある」という表現は、地球上の土壌がその形成過程や機能、多様性において他の惑星や天体とは異なる特徴を持っているという象徴的な表現なのかもしれません。

 そもそも、地球の46億年の歴史の中で、誕生以来40億年は土と言えるものは存在していなく、土が誕生したのは約5億年前からとされています。
 そして、地球の土壌の歴史が浅いことに加え、特別であることの理由の一つは、岩石の風化、有機物の分解、微生物の活動、地形の変化などの地球の独特な地質学的プロセスや生物学的活動によって形成されることで多様な栄養素や生物の生息地を提供していることです。

 東北大学大学院生命科学研究科の大久保智司特任教授によれば、土壌中には、土1gあたりに50~200憶個の土壌微生物が存在しているのですが、特定の種が優位になってしまわないという、いわゆる「一人勝ち・・・」の状態にはならない原則が働いているかのような多様性が保たれているのだそうです。

 その理由の一つとして、土壌中の栄養源は非常に乏しいために増殖速度の速い種が独り占めしないよう、お互いの代謝物によって増殖を止めるような遺伝的な仕組みを持ち合わせているのでは・・・という仮説もあるようで、38億年の微生物の歴史の中で、一人勝ちではうまくいかないということを遺伝子的に学んでいる可能性もあるというのです。

 そして、その多様な土壌微生物によって産生される、様々な微量元素によって地球上のありとあらゆる生物が支えられていると考える必要があります。さらに、土が出来る時間も膨大な時間がかかっていると考えられています。

 森林総合研究所主任研究員の藤井一至氏によれば、アフリカでは数億年かかっていると考えらえる土もあるといわれていますし、東南アジアでも数千万年・・・、日本では、1センチの厚みの土をつくるのに100年から千年程度と考えられています。

 特に日本の場合は、地震、火山の噴火、洪水など土壌の変化の大きい条件が重なるなどの要因があり、土になるまでの時間は、場所などの条件によって違うことに加え、降水量が多いために土壌中のカルシウムが流されることで酸性になり易いと言われています。
 そのために、アルミニウムが土壌中に溶出することで植物に悪影響が出るなど、農地への影響があり、アルカリにするための処置の必要がある土壌とされています。

 そして、土壌微生物を育み多様な微量元素を生成する仕組みのひとつが団粒といわれる構造です。

 この団粒は、土を掘ったときにごろごろとした、土が固まったような構造のものを指すそうで、サラサラではなくこのごろごろとした塊が、土の成分どうしの間に隙間をつくり、水や空気の通り道になったり、微生物の居場所になっています。

 この隙間に嫌気性菌や好気性菌と言われる微生物が混在する多様な微生物コロニーが生成されることで、2000μmのマクロ団粒には、0.2μmのミクロ団粒と言われるものがマトリョーシカのように入っていると考えられており、植物の根やカビ、落ち葉などからの有機物、粘土鉱物などの無機物を含めた多様な元素がほどよく混在するのです。

 さらに、ミクロ団粒は、原生動物から微生物が身を守るためのシェルターにもなり微生物の多様性を担保するという役割を果たしています。

 ここでポイントになるのは、このような多様性をもった団粒の構造は自然のチカラでしかできないということです。

 近年では、この団粒に着目した不耕起栽培という耕さない農業についても注目が集まっています。

 そもそも、土壌微生物を中心に考えれば、耕すという行為は、微生物にとっては良いことではないという考え方もできます。

 団粒があることで、風雨による土壌の流出を抑制できると考えれば、団粒が無くなるほど土を耕すことは良くないということになりますし、耕すことで、土壌中の微生物の量が約7割減少するという報告もあるそうです。

 WHO(世界保健機関)は、ワンヘルスという言葉を使い、「私たちの健康は、家畜の健康や環境の健全性と一体である」という考え方を提唱しています。その考え方からすれば、農地、すなわち土の健全性は重要なことになり、私たち自身の健康にも一番の近道になるともいえます。
 
 そもそも、有史以来農業=耕作という概念が定着しています。耕すことの利点は、雑草の抑制、排水機能の向上、空気を入れて柔らかくすることにあります。そして、一番のメリットは、単位面積あたりではなく、大規模化による生産性の向上です。

 つまり、不耕起栽培では単面積当たりの収量の向上が見込めても、雑草の抑制などの作業を考慮した場合に大規模化には向かないという現状でのデメリットもあります。

 その一方で、有機物の半分は炭素です。空気中の炭素の量の2倍の炭素を土は閉じ込めておくことが出来ると考えれば、土の中に炭素を固定することで大気中の炭素濃度を下げられる可能性があると共に、窒素固定菌などの微生物が、大気中の窒素を有機化合物に変換することで土壌中の窒素の利用可能性を高められれば、土壌中への窒素の固定にも繋がります。
 
 そう考えれば、不耕起栽培によって土が二酸化炭素の吸収源になったり、窒素固定の向上に繋がり、地球温暖化対策と食糧問題との両立の可能性も見えてきます。

 「耕すか、耕さないか・・・」という問題は、ひょっとすると「どこまで、耕すか・・・」に変化していくのかもしれませんが、この問題を農業という一部の人たちの問題として置き去りにするのではなく、地球上の生物種のひとつとして「土」を見直すきっかけにしたいものです。





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