2015年10月10日
人類の進化と乳製品

最近、「牛乳は本当に身体にいいのか・・・?」というような表現をよく耳にするようになりました。そのような主張の中にあるのは、「牛の乳は、子牛のためのもの・・・」とか、「牛のようなあれだけの大きな、個体を成長させるためのものだから、人間には適さないのでは・・・」というような内容のものが多いような気がします。
人間は生物学上、哺乳類というところに分類されます。哺乳類は出産後、母乳によって栄養と免疫系に不可欠な成分をもらっています。
その後、「離乳期」を迎え、他のものから栄養素をとるようになるのですが、離乳期をおえても「乳」から栄養分を摂取するのは、実は人間だけなのだそうです。
「乳」と一概に言いましても、様々な種類の哺乳類の「乳」があり、その種によって、「乳」の成分のバランスも違うそうなのですが、ほぼすべての「乳」にはラクトース(乳糖)と呼ばれる糖が含まれています。
このラクトースを消化するには、ラクターゼと呼ばれる酵素を必要とします。このラクターゼは、誕生した時点で全ての哺乳類が持っているのですが、生産能力は遺伝的にコントロールされており、人間以外のすべての哺乳類は思春期といわれる時期を迎える過程でラクターゼを生産が止まってしまうことが分かっています。
これが、離乳期以降、人間以外の動物が「乳」を口にしない大きな理由の一つとされています。
人間に場合も、すべての人間が継続的にラクターゼを生産できるかといいますと、実はそうでも無いようで、大半の人間も止まってしまうとされています。
成人のラクトーゼの生産能力は、子どもの10%ほどしかないとも言われています。
この、ラクトーゼの減少については、まだまだ未解明の部分も多いようでうですが、少なくとも「必要無くなるから・・・」ということでは、説明がつきにくいところも沢山あるような気がします。
乳糖不耐症(ラクトース不耐症)といわれる、「お腹がゴロゴロする・・・」という症状に悩まされる、人が多いのは、哺乳類の仕組みからしても当たり前のこと・・・と考えなければいけないことなのかもしれません。
その一方で、多くの人は一生、乳製品を摂り続けることができるというもの現実です。
古くは、ギリシャ・ローマ時代から大人の乳製品を消化する能力に違いがあることは知られていたそうです。20世紀に入るようになり、その後の世界中での調査研究によると大人が乳製品を消化する能力を持ってる地域があるということも明らかになってきました。
その地域というのが、スカンジナビア地域と呼ばれるヨーロッパとアフリカ及び、中東の一部であり、世界中の35%程度ということが分かってきたのです。
当時、「乳」を摂取できるのが当たり前と考えられていたのが、実は、進化の過程で遺伝子によって決められていることが分かってきているようです。
しかも、この遺伝子が「優性」であることが1970年代にわかり、乳糖不耐症ではない人たちが長い年月をかけて、徐々に増えてきているというのが、「進化の過程」から見た場合の見方ということになりそうです。
紀元前3000年からあるといわれる、チーズやヨーグルトなどの乳を利用した発酵食品・・・
ご存じのかたも、いると思いますが、乳酸菌を利用した発酵食品が、ラクトース(乳糖)の一部が分解されているために、乳糖不耐症の症状に悩まされることは少なくなります。
約5000年にもわたる長い時間をかけて、発酵乳と付き合ってきたということもひょっとすると、進化の過程に大きく関わっているかもしれません。
最近では、スウェーデンの食品庁が「コメの摂取に制限を・・・」ということもあるようですが、千年単位で人類がつき合ってきた、「自然の恵みである食物」の是非については、進化という身体の適応能力も考えたうえで時間をかけて判断することも必要かもしれませんね・・・