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2016年06月24日

腸内フローラ研究の歴史を振り返る

腸内フローラ研究の歴史を振り返る


 腸内フローラという言葉は、現在では多くの方に知られるようになってきましたが、その変遷を考えると「健康のために、細菌を身体の中に取り入れる」という発想は、当時にとっては「とんでもないこと・・・」というところからスタートし、どのように現在に至ったのかを考えてみたい思います。

 そもそも、「人間の腸内の細菌を始めて見た人」とされている人は1680年代のオランダの科学者であるレーウェンフックが自らが制作した顕微鏡で、人や動物の糞便に含まれる微生物のスケッチをしたことから始まるといわれています。

 その後、1861年にフランスのパスツールが、それまで、「生命は無機質の中から生まれる」と考えられてきた、自然発生説を「生命は生命から発生する」ことを証明したころから、近代の細菌学が急激に進み始めたと言われています。

 それと同じ時期に、ドイツの医師コッホが、糞便の中から、結核菌やコレラ菌、チフス菌、赤痢菌など病原性の細菌の分離に成功したと言われれています。

 このころは、「身体に良い菌」という発想ではなく、細菌というものは「身体を蝕むもの」と考えられており、細菌研究というものは、いいかえると「バイ菌の研究」そのものであったと言っても過言でもないという時代でした。

 そんな中、1899年にフランスのパスツール研究所のティシエによって母乳栄養児から乳酸菌の一種であるビフィズス菌が発見されたのです。当時、母乳と人工乳では新生児の健康状態に大きな違いがみられたために「腸内細菌が宿主の健康に大きく関わっているのでは・・・」という仮説が立てられ始めたのです。

 その後、1907年に現在の腸内フローラ研究にとって歴史的な初期学説がロシアの微生物学者メチニコフによって発表されました。
 これは、ブルガリア地方には長寿者が多くヨーグルトを日常的に摂取していることに注目し、「食品から乳酸菌を摂取することで腸内腐敗菌を駆逐し、長寿を保つことが出来る」という「不老長寿論」を出版したのです。その後、メチニコフはパスツール研究所の副所長を務め1908年には、免疫に関する研究でノーベル生理学。医学賞を受賞したのです。

 このような流れから、急速に腸内フローラの研究が盛んになったかと言うとそうではなかったというのが現実のようです。

 東京大学名誉教授光岡知足氏によりますと、1933年頃アメリカのエッガース氏などによって嫌気性菌を含め多くの新菌種の発見がありましたが、当時の細菌研究は「病原菌を調べて治療法を探る」という治療医学が優勢で、予防医学的な発想においては、ほとんど光が当たらなかった・・・というのが現状で、腸内環境を整えるような予防医学的な研究が盛んになったのは1960年代からだったようです。

 そんな1930年代、京都帝国大学の医学部の代田稔氏が「予防医学」に注目し、人腸乳酸菌を強化培養に成功してL.カゼイ・シロタ株を商品化して「ヤクルト」として販売を始めたのが1935年・・・
当時は、シロタ株そのものが治療に有効である可能性もあったために、多くの製薬会社が薬としての契約のオファーがあったとされていますが、代田氏はあくまでも「予防医学」にこだわり、「誰もが手軽に手に入れることが出来る食品」であることを貫き通したのです。

 最近では、よく耳にするようになったプロバイオティクスという言葉も、1989年にイギリスの微生物学者フラー氏が「腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを改善することにより人に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義したということからすると、学問の世界で本格的に腸内細菌について予防医学に関心が高まってきたのは比較的最近のことなのかもしれません。

 この腸内フローラの歴史の1ページに、あくまでも「予防医学」こだわり続け、腸内細菌の健康効果に対しての先駆者としての覚悟と先進性を託した、代田稔という一人の科学者の存在は大きなものなのかもしれません。



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