2016年08月20日
米国のトランス脂肪酸使用禁止から見えてくるもの

2018年までに、米国のFDAでトランス脂肪酸の仕様を禁止するという報道がありました。トランス脂肪酸は「食べるプラスチック」ともいわれ、健康に関する影響など色々なところで議論されている物質の一つです。
マーガリンなどの固形化された植物性の油脂をつくるときに生産される物質の一つとして御存じの方も多いと思います。その一方で、トランス脂肪酸と一言でいっても、肉や乳製品にごく微量ではありますがもともと含まれている成分でもありますので、「自然界にもともとあるもの・・・」として、影響の是非についての議論があることも事実です。
アメリカでは、深刻な冠動脈を含めた心臓疾患の多さを背景にしてもともとトランス脂肪酸の含有量表示についての義務付けがされてたということがありました。そして、今回の禁止ということになるわけですが、今回の禁止ではトランス脂肪酸そのものを禁止したということでないというのが一つのポイントです。
マーガリンの例が分かりやすいと思いますが、通常多くの植物性油脂というものは常温で液体という形になっています。それをバターのように固形化するために植物性油脂に水素を添加します。その時にPHOs(Partially Hydrogenated Oils)と呼ばれる部分水素添加油脂が多くできます。その人工的に精製する際に出来るPHOsをGRAS(Generally Recognized AsSale)とよばれる「安全な食品」とは認めないというのが実際のことのようです。
この決定については、準備期間を経て2018年にはPHOsの使用が禁止になるということです。
この禁止そのものについては、健康効果と医療費の削減ということも含め、一定の評価があると考えられていますが、その後どうのようになっていくか・・・?ということのほうがむしろ興味深いところなのだと思います。
例えば、マーガリンやショートニングなどの食品はほとんど流通しなくなるのかというとそうではないようです。
その理由としては、水素添加によって植物油脂を固形化するのではなく、他の方法で固形化する技術がすでに開発されているからだとも言われています。
実際に、日本国内でも大手製パンメーカーで全てのパン製品において、トランス脂肪酸の不使用をうたっているような事例もあるそうなので、国内外も含め流通している商品においては「脱トランス脂肪酸」の方向性は進みつつあると考えても良いのかもしれませんが、消費者の立場からすると食品表示の義務も含めその状況を知る術がないために、取捨選択すら出来ないというのが日本国内の現状の様な気がします。
そのために、安全なものを「何が入っているかわからない・・・」という理由で、恐がらなくてはならないという傾向を助長している様な気がします。
また、植物性油脂の原材料である大豆そのものを、GM(遺伝子組み換え)技術などによって改良し、固形化しやすい種子の開発がモンサント社中心に進んでいるようです。
消費者の立場からすると、今回の禁止によって、「トランス脂肪酸」でなくなった代わりに「GM(遺伝子組み換え)食品」になった・・・というのも「釈然としない」ということになるのでないのでしょうか。
このトランス脂肪酸の表示も含めた議論については、「日本の場合には、米国ほど一人当たりの摂取量は高くないから、必要ない」という意見もあるようですが、色々なものが二極化する中で、統計的な平均値だけで評価できないというところに対して、どのように考えているのか・・・?という疑問もあります。
今回の禁止に関しても、種苗メーカー側の技術開発との高度な政治的関わりを指摘する声を耳にします。
最新の知見をもとに、「自分自身の身体のもとになる食品」を取捨選択できるだけの情報を手にすることが出来るような制度と栄養教育も含めた情報リテラシー能力がますます必要な時代になってきたのではないのでしょうか・・・。