2016年10月07日
特定保健用食品と企業倫理

先日、消費者庁は健康増進法違反の疑いで、特定保健用食品の表示許可の取り消しを行いました。これは、通称トクホという制度が導入されて25年になりますが、初めての事例になります。
消費者庁によりますと、「血圧が高めのかたに適した食品」という表示許可にも関わらず、「薬を頼らずに、食生活で血圧の対策」というような表現の飲料の広告をすることで、消費者に対して、過度な期待や、誤解を与えるということのみならず、一部の商品については、一部の表示成分が全く含まれていなかったということに対して、「悪質性が高い」という判断をした結果ということのようです。
食品の健康効果については、利用する方の「健康を願って・・・」ということはもちろんではありますが、その一方で、企業としての成長戦略や「売るため・・・」という、ある種のエゴが見え隠れするところがあるのも事実でもあります。
数年前に、アルコール飲料のトクホ取得に関しての議論があったことも、記憶に新しいかたもいるかと思います。
このケースは、アルコールという健康への影響もあり未成年への提供を法律的に制限しているようなものに健康効果があるという成分を添加したからといって、トクホ表示としてふさわしい食品なのか・・・というものでした。
同様に、炭酸入り清涼飲料に食物繊維の成分を添加することで、「食事の際に脂肪の吸収を抑える」という表示の許可がなされましたが、肥満大国と呼ばれる米国では、このような清涼飲料による影響が大きく、販売の制限や課税の議論までなされているカテゴリーの食品です。
このことは、今まで健康にあまり良くなさそうだから飲まないようにしていた方が、「飲んでも大丈夫・・・」というようなものではないような気がしますが、企業の戦略上、そのような誤解を容認するようなことがあるとすればこの制度そのものの根幹が崩れかねないということにもつながってしまいます。
現状、特定保健用食品にもさらに種別があり、通常の特定保健用食品だけでなく、カルシウムや葉酸などのあらかじめ疾病のリスクに対して効果が実証されている成分を利用した「疾病リスク低減表示」や食物繊維やオリゴ糖などの社会として科学的根拠が蓄積されている関与成分を利用した「規格基準型」、特定保健用食品に審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには達していないが、限定的な表示を許可する「条件付き」など様々な種類があるために、消費者の立場としてはわかりにくく、メーカの広告などの情報を信頼せざるを得ないという状況にあります。
最近では、これに加え「保健機能食品」のように健康効果については一定の研究結果をもとにメーカーが責任を負うというような制度も出来てきましたので、さらに分かりにくくなってしまったという方も多いのではと思います。
ここで、知っておいていただきたいのは、特定保健用食品についていえば、保健効果に関する表示やパッケージについては、消費者庁の厳密な許可が必要である・・・ということです。
特に、許可表示については、一言一句消費者にとって誤解の無いように臨床も含め、試験データをもとに決めているということです。
そのために、「規格基準型」や「条件付き」ではない従来型の特定保健用食品の許可には数億単位の研究費と時間が必要であるということなのです。
このことは、逆にいいますと、商品そのものもパッケージには厳密なルールがありますが、その商品に対する広告などのプロモーションについては、企業の考え方に委ねられている・・・ということなのです。
今回の許可取り消しを受けて、消費者庁も「商品の買い上げ調査の再開」を検討しているそうですが、提供する企業自身の姿勢によって、食品本来の持つ「身体に良い・・・」という良さが損なわれないためにもここで今一度「襟を正す姿勢」が必要なのかもしれません。