2016年11月06日
乳酸菌研究のいま ・・・(Ⅳ)

先日、ヤクルト中央研究所のリニューアルを記念して「ヤクルト中央研究所オープニングカンファレンス」が、ヤクルト本社と科学雑誌「Nature」との共同企画で世界中の微生物や免疫などの研究に取り組んでいる研究者の方々を招待して開催されました。
その時に行われた、研究成果として、慶応大学医学部微生物・免疫学教室の本田賢也教授から、近年急激に増加しているクローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患と口の中にある口腔常在菌との関係についての興味深いお話がありましたのでご紹介します。
腸管内には様々な免疫細胞が多数あることはご存知の方もいると思います。この免疫細胞のいろいろな機能について、腸内細菌によって大きく影響を受けてるということで、多くの研究者たちにとって興味深い研究対象として注目を集めています。
その一方で、ヒトの口腔内にも多くの細菌が存在しており、唾液とともに腸管まで入っていきます。1日1,500mlとも言われる唾液に含まれる口腔常在菌は腸管内においては通過するだけで定着はしないと考えられていました。
しかし、近年の研究でクローン病やIBS(潰瘍性大腸炎)、さらには大腸がんや肝硬変について大腸TH1という免疫細胞が異常に活性していることがわかってきました。しかも、この大腸TH1という免疫細胞を活性化させる細胞誘導菌と呼ばれる細菌の存在も明らかになってきました。
本田教授の研究によりますと、大腸TH1の細胞誘導菌として口腔常在菌であるクレブシュラ菌によるものであるということが解っきたということのようです。
このクレブシュラ菌は、以前から炎症性腸疾患の腸管から検出されることがわかっていました。このクレブシュラ菌については、便からの検出は少なく、粘膜のサンプルを調査したものでないと検出されないのでわかりにくいとされています。
通常は、腸管内には病原体や通常の生理現象を阻害する非生理的な微生物の定着を防御するためのColonization resistanceと呼ばれる仕組みがあります。しかし、腸管炎症や抗生物質によって腸管のバリアが破たんすることによって定着防御のためのシステムが壊れていまいクレブシュラ菌などの自己免疫疾患を誘発するような菌が定着してしまうきっかけをつくってしまうということが明らかになってきました。
難病とされている、クローン病やIBS(潰瘍性大腸炎)などの炎症性腸疾患は、免疫システムの暴走による自己免疫疾患の一種として考えられていますが、今回の講演で紹介された内容のように、疾患そのもののメカニズムがわかってくることによって、腸管内の炎症を少なくしたり、抗生物質の多用によって引き起こされる可能性対して、予防的な生活を心がけることができるようになると思います。
まだまだ、未解明の部分もおおい、腸内細菌と腸管免疫の話・・・
これからも、さらなる研究の成果に期待したいところも大きいと思います。
Posted by toyohiko at 10:16│Comments(0)
│身体のしくみ