2016年12月17日
免疫の男女差という「不都合な真実」は本当か?

世界的科学雑誌で知られるNatureの2016年9月ダイジェストで興味深い記事を見つけました。そこに記されていいたのは、「感染に対する免疫系の反応に男女差があるという事実は、今日の医学会に大きな問題を投げかけるものだ。研究者たちは、この真実に目を向け始めている。」という言葉です。
このことは、2016年6月にボストンで開催された米国微生物学会議(ASM2016)で発表された内容で、免疫システムと関連する予防接種プログラムの策定や、対象の絞り込みによる今までより効果的な治療法につながる可能性について多くの関心を集めているそうです。
様々な、感染に対する反応の男女の差はかなり以前から知られていたそうで、1992年セネガルとハイチで行われた新しいワクチンの臨床試験で、女児の死亡数との関連が取りざたされたことでWHO(世界保健機関)が急遽、ワクチンの使用を取りやめたという事例があります。
この時、特徴的だったのは男児に関しては、ほとんどワクチンの影響を受けなかったということです。「なぜ、女児だけだったのか・・・」という理由についてはいまだに不明ということですが、この事故が、多くの科学者にとって免疫システムの男女差について関心を寄せる事例の一つになったことは事実のようです。
免疫学者である、ハインリッヒ・ペッテ研究所のMarcus Altfeid氏によりますと、「女性は胎児や新生児を守るために、迅速で強力な免疫反応を進化させてきたのかもしれない、しかし、その進化にはコストが伴う。免疫系が過剰に反応し、自分を攻撃することがあるのだ・・・」と語っているそうで、女性の方が、多発性硬化症や狼瘡(ろうそう)などの自己免疫疾患になり易い理由についても男女差にあることの可能性を示唆しています。
また、オーストラリアの結核ワクチンの投与でも、女児が抗炎症性タンパク質を産生したのに対して、男児ではそのような作用は見られなかったという事例もあるそうです。
しかしながら、免疫反応について男性と女性を別々に評価している研究例は非常に少なく、月経周期や妊娠など臨床結果を複雑にする要素が多いのも事実で、多くの臨床試験は男性のみを被験者としているという現状もあるらしいといわれています。
さらに、これらの研究については、免疫系のみでなく性ホルモンとの関連性など様々な要因があるために、まだまだ未知の部分も多いかと思いますが、今後、驚くような発見が出てくる可能性も否定できません。
オランダのユトレヒト大学医療センターのLinde Meyaard氏は、「免疫反応の男女差は「不都合な真実」なのです。人々は自分が片方の性について研究していることが、他方の性に当てはまらないことを知りたくないのです。」と言っているそうです。
これは、いままで、培ってきたものに対する価値観が急激に変化してしまうことに対する、「受け入れ難い・・・」という抵抗感について危惧してるのと同時に、「難しさ・・・」を感じているのかもしれません。
科学の世界に限らず、「受け入れがたい・・・真実」とどのように向き合っていくかの一つの事例なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 12:19│Comments(0)
│身体のしくみ