2017年01月21日
「美味しい」と「不味い」の正体

皆さんの周りにも、「食べることくらいしか楽しみが無くって・・・」というような方もおられると思いますが、「食べ物を美味しく食べる」というのは、多くの人にとって大変重要なことなのです。
その一方で、「珍味」と呼ばれる、普通ではあまり食べそうもないものに対しても食の好奇心が湧いてくる人も少なくないと同時に、「一番最初に食べた人は、勇気あるよね・・・」という話が飛び交うこともあります。
この「一番最初に食べた人」と味覚に関わる研究に関してご紹介していきたいと思います。
一般的に、身体が大きくなるに従って色々なものを食べるようになると言われています。昆虫などはいい例で、限られた種のものしか食べないということは良く知られていることです。
何故昆虫が、特定の種しか捕食しないかという説においては、「昆虫の代謝や解毒能力には限界があるから・・・」というのが有力だとされています。
ここで、「解毒」というキーワードに関して考えてみますと、多くの昆虫が捕食する対象としているのが植物です。植物は当たり前ですが根を張っているために食べようとする対象者から逃げることが出来ません。
逃げられないので、どうするか言いますと、「いやだ・・・」という成分や「毒」になる成分をこの合成によってつくることで植物自身の身を守ろうとしています。
だから、その毒物を解毒出来る昆虫や動物だけがその植物を利用できるというわけです。特に身体の小さな昆虫の場合は、多様性や大きな解毒機能を持つことが出来ないからだという考え方が一般的だと言われています。
つまり、「美味しい」や「不味い」という味覚は、危険性が「ある」か「無いか」・・・とか、食べると「損か」「得か」・・・ということを身体が自ら判断するためのセンサーであると考えられているのです。
京都大学霊長類研究所の今井啓雄准教授によりますと、自らの危険を察知するためのセンサーである「苦味」に関する苦味受容体が、遺伝子構造が変異しつつ増えているということが分かってきたというのです。
これは、動物にとって旨味や甘味をしめす、「美味し食べ物」だけでは食料が十分ではなく、「不味い食べ物」でも食べざるを得なかったために、いかにして未経験な「食べても安全な食べ物」を見つけるか・・・というのは大変重要な問題であった事に対する適応能力の一つということです。
このことは、食べても生き残った個体が長い時間をかけて遺伝子的に引きつがれたという考えもありますが、その一方で、苦味受容体の感受性を失った突然変異の個体が関わるという「偶然」も手伝って、多様な食べ物を食べられるようになってきていると考えられています。
「食べる」ということは、物質を体内に取り込むことも含め、最近では味覚情報を受け取るための受容体やその情報を伝達するための細胞に関係するタンパク質が口腔以外のところに存在しているということが分かってきたそうで、気管や鼻腔のように口に近い部分をはじめ、腸管やすい臓でも甘味受容体があり、糖分のセンサーとして内分泌系や免疫系を制御しているそうです。
未知の食べ物への挑戦は、単なる「勇気」なのではなく、突然変異も含めた身体の様々な「種の生存競争」の仕組みそのものだったかもしれませんね。