2022年07月29日
「他人の足を引っ張る日本人」は本当なのか

「日本人の素晴らしさ・・・」について、様々なところで称賛の声がある一方で、「日本人は意地悪である・・・・」という研究結果が報告されているのはご存知でしょうか。
その代表的なものの一つが、大阪大学 社会経済研究所の西條辰義教授による「日本人はいじわるがお好き?!」というセンセーショナルなタイトルの研究プロジェクトです。
このプロジェクトは、行動経済学における「囚人のジレンマゲーム」を応用し、アメリカ人と日本人の公共財に関する考え方を比較したものです。
そもそも、社会インフラと言われる道路や公立学校などの公共財は社会的便益性が高いという事もあり、「皆で少しずつ負担すべき・・・」という考え方があります。
その一方で、自分位はそのような負担をしなくても、どうせ何とかなるのだから・・・、負担するのはバカバカしい・・・」と考える人もいないわけではありません。
このような、「負担するなんて、バカバカしい・・・」と考えることをフリーライド(ただ乗り)と、一般的に呼んでいるようで、公共財のみならず、環境問題についてもこのような傾向を示す人の存在は、大きな課題の一つと言えます。
この調査からみられる、日米のフリーライドに関わる傾向について、西條教授は次のような考察をしています。
・日本人は、アメリカ人と比較して、最初から「ただ乗り」しようと考える人が多い
・ただし、その状況を見た他の人が自分の損も顧みず、フリーライダーに対して報復的な行動をとる傾向が強い
・フリーライダーは、公共財構築に対して協力的でないと後が怖いことを徐々に学習する
・最終的に、日本人はアメリカ人より、協力的な行動をとるようになる
というのです。最終的には「日本人は、協力的で協調的な人たち」という事になるのですが、この研究結果によれば、「みんなで仲良く協力をしないと、あとが怖い・・・と思っている人たち」というような複雑な心情も含めたうえで理解をしないといけないようです。
ここでの疑問は、何故日本人は、フリーライダー的な発想の人が多いのか、そしてそのフリーライダーに対して、損をしてまでその人を許せないのか・・・という疑問です。
この理由として、単一民族であり、資源の限られた島国であることと関係しているという見方もあるようで、限られた資源を守っていくために、そのコミュニティの連帯を乱そうとする者に対して、皆で協調して排除することがコミュニティを守るために必要であるという歴史を繰り返してきたためという意見もあります。
金沢大学 融合研究域融合科学系の金間大介教授によれば、人がフリーライダーになる行動原理は、「ただ乗りして見つかる確率×見つかった際に課せられるペナルティの大きさ」という外敵報酬(ペナルティとしてのマイナスの報酬)と比較して、共有すべき負担が大きいと感じるというバランスによって判断します。
つまり、損得勘定を優先し、モチベーションなどの内的報酬とは直接的な関係はないとしています。
それでは、そもそもアメリカ人の方がもともとのフリーライダーが少ないのかという問いに関しては、もともとの考え方に「公共財を負担することで内的報酬を満たす」という、「人は与えてもらうときよりも与えることの方が、より強く幸福感を感じることが出来る・・・」という事を日常生活の中で体感する機会が多いことが考えられるとしています。
前出の金間教授によりますと、日本人は「共助」が非常に苦手であると言います。
他人や隣人に対して、恐怖感があるあまり「共助」に対して消極的であるだけでなく、政治や行政などの「公助」に頼るという傾向が強いというのです。
「共助」に対する苦手意識は、自己責任主義ゆえに、自分の事は自分でする・・・が強く、「頼ることは悪」という価値観にもつながっている可能性を考える必要があるのかもしれません。
日本人の「共助」に対する傾向は、World Giving Index(WGI)という国際的な調査の結果にも表れているとしています。
この調査は、次の3つの設問に答えてもらうシンプルなものです。
Q1.助けを必要としている外国人や見知らぬ人を助けたか。
Q2.慈善団体などに寄付を行ったか
Q3.ボランティア活動に参加したか
2009年から2018年の10年間の調査の結果、125ヶ国中、日本は残念ながら107位という結果でした。その中でも、Q1の「人を助けたか・・・」という「共助」に関わる項目については125位と最下位でした。さらに、直近の2021年度版の報告では総合で114ヶ国中最下位とランクダウンしているのです。
このような、現実と私たちはどのように対峙していったらいいのでしょうか。
日本人は、他人に少しでも迷惑をかける行為は「悪」という、徹底的な自己責任主義から、「そのような人を許さない・・・」という空気が出来てしまっていると言います。
その空気によって、極端な内向き志向と他者への恐怖心を生み出している可能性が指摘されています。これも、同調性を重んじる空気感ゆえの気質・・・だとすれば、多様性の時代だからこそ「頼るチカラ」を大切にし、様々な価値観を変えていくチャンスに出来るのかもしれません。
Posted by toyohiko at 13:08│Comments(0)
│社会を考える