身体のチカラ › 2025年01月17日
2025年01月17日
身近な自然を知ることから始めよう

絶滅危惧種や生態系の保全など、私たちを取り巻くヒトを含めた生態系に関する変化は、目まぐるしいものがあります。
地球温暖化と言われるような気温の上昇によって、農産物や水産物にもいろいろな影響が出ていることは多くの方々がご存知かと思います。
今年は、果樹を中心とした越冬したカメムシの被害や熊などの大型哺乳類の人間社会への影響もその一つです。
生態系の変化は、自然環境だけのためではなく、農産物や水産物という視点で考えれば私たちの食糧の問題に直接影響します。そのためには環境の状況変化に合わせた個体数や種の変遷などの継続的な変化を把握していることで、はじめてその対処方法を考えることが出来ます。
また、その変化の因果関係などを考えた時には、どのような情報が必要なのかもわかりにくいのが現状ですし、その因果関係につながる仮説力が非常に重要になります。
そこで、多くの場面で行われているのが指標生物やその生息環境に関するモニタリング調査です。
例えば、特定の種が「減った・・・」とか、「増えた・・・」というような状況についても、発言者の印象や感覚と言われるものによって、全体を判断するということは良くない事になりますし、こと、自然環境というような対策の影響に対する答えが長いタイムスケールでしか得られないような場面では、対策の判断が間違ってしまうことで、現状の課題がより深刻になったり、新たなる負の影響を導き出してしまう恐れすらあります。
そのためにも、それぞれの環境に生息する指標生物やその他の可能性を持っている種の現状を的確かつ正確に把握した上で判断することが必要です。
そして、その把握したデータを出来る限り外部に公開していく事で、色々な立場の人たちを巻き込んでいく事も大切です。その一方で、希少生物については、商業ベースの発想になってしまう方も多く、生息域の情報についても慎重な姿勢にならざるを得ないという現実もあります。
とはいえ、生態系全体のことを考えていけば出来る限り全体を網羅するようなデータの蓄積は必要不可欠になります。
そこで、新たな手法として期待されるのが、環境DNAを活用した生態系の把握です。
環境DNAによる調査とは、海洋中や河川や湖沼などの環境中に溶け出した魚の糞や粘液などに含まれる生物由来の微量のDNAを抽出し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる方法で増幅させ分析することで、そこに棲む生物種を知ることが出来るという方法です。
更に、そこで検出されたDNAの量によって、そこの環境下での種の構成などが解るというメリットもありますし、生物から放出された環境DNAは長くて1か月ほどその環境中に存在するといわれていますので、時系列データとしての活用にも有効とされています。
このような手法については、魚類や甲殻類などの大型のものについては、一定のノウハウを構築しつつあるようですが、小型の水生昆虫や植物、さらに藻類などは、これからの課題でもあるようです。
よって、現在では環境DNAを活用した手法は、生態系の保全というよりも、食料としての水産資源の確保や現状食習慣の無いような種のマーケティングなど産業分野での可能性を模索しつつある中での活用が中心のようですが、「見えない世界としての水中」の様子がこうした技術を使って可視化出来つつあることで、より定量的な把握が可能になってくるということについては大きな意味があるかと思います。
土、水、大気をとりまく生態系は、私たちにとって食糧の確保も含めて大切であり、一方的に搾取するだけでなく保全していかなくてはならない環境そのものです。
そのために、断片的な情報や声の大きい人たちの印象に引きずられてしまうことで、間違った判断をしてしまった結果への責任は、次の世代への責任と考えれば自らの判断も変化してくるものです。
生態系の保全には、特効薬や起死回生の一手というような「これさえ、やっておけば・・・」という単純な答えはなく、一人一人の小さな日常の積み重ねの結果に他なりません。
だからこそ、「さいきん、昆虫を見かけなくなった・・・」という印象を、印象だけで終わらせる事ではなく、話題にすることで、他の人たちと意見を交換したり、専門的な知見と照らし合わせることで、見えてくるものも多いと同時に、その経験によって、行動が変化していくことが大切なのだと思います。