2017年11月10日
乳酸菌研究のいま・・・(Ⅷ) 非感染性疾患のプロバイオティクス効果

乳酸菌やビフィズス菌の健康効果に関して、今までは細菌やウィルスなどによる感染症に対する抑制効果はすでに色々な研究報告がなされていますので多くの方がご存じかと思います。
具体的に云いますと、細菌性の食中毒の予防効果やノロウィルスによる消化器系感染症の発症期間の減少、インフルエンザウィルスなどによるウィルス性の上気道感染症の発熱状況の緩和、更には、MRSAなどの術後感染症の予防や術後の回復促進につながる「シンバイオティクス療法」など、多くの研究者が関心をもって取り組んでいるものです。
その一方で、非感染性疾患(NCDs)と呼ばれる、糖尿病、心疾患、がんや慢性呼吸器疾患など非感染性の慢性疾患については、感染症ほどの因果関係が解明されていないというような現状があります。
今回は、フィンランドのトゥルク大学医学部小児科教授のErika Isolauri博士による研究結果をご報告したいと思います。
Isolauri博士は、「我々にとって、最大の健康面の課題は非感染性疾患(NCDs)の増加を抑制することである・・・」と、出産初期の腸内フローラの組成と非感染性疾患(NCDs)のリスクに対しての警鐘を鳴らしています。
Isolauri博士によりますと最新の実証および臨床研究において、「腸内フローラが体重及びエネルギー代謝の抑制だけでなく、肥満の特徴であるインスリン抵抗性と炎症状態にも影響する・・・。」としています。
つまり、「特定のプロバイオティクスによる腸内フローラの改変によって非感染性疾患のリスク軽減につながる・・・」というのです。
例えば、アトピー高リスク乳児の湿疹などについても、周産期にLactobacillus rhamnosusという菌株を摂取した母親から生まれた小児はアレルギー罹患率が低下する傾向が、長期間にわたる追跡調査の結果示されました。
また、妊娠1ヶ月から3ヶ月の妊娠初期から完全母乳育児終了期に渡り母親にLactobacillus rhamnosusとBifidobacterium lactisの2種類の菌株の摂取をした場合に於いては、産後12カ月までの母体の肥満リスク及び妊娠糖尿病のリスクが顕著に軽減されたという結果も出ています。
母体の肥満や耐糖能異常は子どもの過体重や幼少期の急激な体重増加などが周産期のプロバイオティクスの摂取によって緩和された事例にもつながっているようです。
これらの様に、プロバイオティクスの摂取による効果は感染症以外にも徐々に成果として、報告されはじめていますが、プロバイオティクスの一番の利点は、「安全性」ということだと、Isolauri博士は述べています。
様々な、研究報告の中で「有害事例がほとんどない・・・」ということが、他の薬剤などを利用した治療などとの大きな違いなのです。
その一方で、善玉菌とも呼ばれるプロバイオティクスの特性として、菌株単位で「他の菌株とは、本質的な違いがあるために、例え、生物学的な系統で非常に近い場合であっても、同様の健康効果が得られないという認識する必要がある・・・」ということです。
そのためにも、再現性も含めた菌株レベルでの特性を整理したエビデンスによって、菌株が選択できる環境の整備が求められています。
プロバイオティクスが食品にも多く利用されていることも含めて、健康効果を期待する消費者の視点からすると、少数の研究事例をマーケット利用のために誇大に広告するような消費者利益に反するような事に対して慎重な姿勢を持つことが重要だと思います。
「プロバイオティクスの健康利用を通じての社会貢献」という長期的な視点で真摯な姿勢で、情報も含め、利用者に提供していくことがこれから求められていくことなのかもしれません