身体のチカラ

　プロバイオティクスという言葉が普及するようになり、人間をはじめとする様々な生き物が、それぞれの個体だけで生命を維持しているだけでなく腸内細菌をはじめとする多くの微生物との共生関係によってバランスを保っているという考え方が次第に定着してきました。

　例えば、国際宇宙ステーションのような異空間での生活の場合、予想外の微生物がその空間に入り込むということは、宇宙空間で生活する人たちにとって感染源として脅威な存在であることなります。
　よって、宇宙飛行士は宇宙ステーションに行く際には乗船前に無菌状態での生活を強いられるという話を耳にしたことがあります。しかしながらどのような工夫をしても完全無菌にするということについては非常に高いハードルでありその達成については不可能に近いという考え方もあるようです。

　そんな中、宇宙飛行士の世界でも菌を排除するのではなく、菌とうまく共生することによって、宇宙飛行士の健康維持をはかるという考え方に変わらざるを得ない状況にあるようです。

　その時に大切なのは、「数あるプロバイオティクスのなかで何を選択するか・・・」ということになります。

　世間一般に言われている、菌の種類としては「乳酸菌」、「ビフィズス菌」を始め近年では、「デブ菌」や「やせ菌」・・・と様々な言われ方をしています。しかし、乳酸菌といわれる分類のなかでも生物学上20,000種近くあるいうことからすれば、「ざっくりと乳酸菌といわれてもよくわからない・・・」という話になってしまいます。

　比較的よく知られた話の一つになりますが、虫歯菌の一つであるミュータンス菌も分類上は乳酸菌になりますので、その解りにくさから「乳酸菌飲料を飲むと虫歯になる・・・」というような、いわゆる都市伝説のようなものがささやかれたこともありました。
　
　この件については、L.カゼイ・シロタYTI9029のようなプロバイオティクスと呼ばれる食品に含まれる菌株で、実際に歯のう蝕の状況の実験を行い公開することで、都市伝説の汚名を晴らすような状況があったことも事実です。

　このように、プロバイオティクスに関心が集まれば集まるほど、「いったい何が、どのように良いのか・・・」という課題が見え隠れするということになってくるのだと思います。
　これは、現在のプロバイオティクスが主に食品の関与成分として扱われているために、商業ベースでの商品としてのPR合戦化していることによる「解りにくさ・・・」もあるのだと思います。

　先日ベルギーにて開催された、ISAPP（国際プロバイオティクス-プレバイオティクス学術機関）の年次学術集会に於いても、食品やサプリメントとして摂取されるプロバイオティクスの臨床研究による有効性について、使用されている菌株の特異的な証拠の検証の重要性についての議論がなされたというのです。

　一般的には、対象となる微生物の代謝物である乳酸や酢酸、酪酸をはじめとする様々な物質の作用を中心に健康効果についてのメカニズムを論じてきたケースが多いのですが、近年になって代謝物そのものだけでなく、その菌株特有の線毛などの形状や細胞外の多糖類の性質などの細胞そのものの形状などからくる菌体構造や死菌体の有効性も含めた健康への有効性が解明されてきたことなどから、ますます菌株単位でのエビデンスの重要性が強調される形になっているというのです。

　特に、アレルギーや肥満などの炎症に関わる分野などについては、このような菌体の特異的構造による抗炎症作用が研究で分かってきていることもあり、プロバイオティクスの生菌・死菌の双方での作用が認められるようなケースもあるのです。

　いずれにしても、プロバイオティクスを自身の健康のために活用していくためには、「菌を選んで利用する・・・」ことがますます重要になってくるのかもしれません。