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2019年11月22日

より良い睡眠を考える・・・Ⅰ

より良い睡眠を考える・・・Ⅰ


 2019年のOECDの調査によりますと、日本の睡眠時間は1日当たり7時間22分と最下位という結果になりました。「働き方改革」という言葉がある一方で、「24時間戦えますか・・・」というキャッチコピーに象徴されるように、「睡眠を削ってでも頑張る・・・」ということに対して、ポジティブな価値観があることも事実だと思います。

 だからこそ、「睡眠時間が少ない・・・」ということを武勇伝のような口調で話す人が多いことも今までの価値観という背景があるのかもしれません。

 そのような中、2016年にイギリスのランド・ヨーロッパでという非営利研究機関から興味深い報告がありました。
 
 その内容によりますと、睡眠不足が招くであろう交通事故や欠勤、疾病などによる労働時間の損失などを総合して評価したときに、日本の損失額はGDPの2.92%にあたる1,380億ドルという試算が発表されました。
 この損失額は、イギリス1.86%(500億ドル)、ドイツ1.56%(600億ドル)、カナダ1.35%(214億ドル)、アメリカ2.28%(4,110億ドル)と他国と比較してもGDP比で損失額が大きいことが解ります。

 中部大学生命健康科学研究所特任教授の宮崎総一郎氏によりますと、睡眠不足は自身の判断力の低下などのみならず、睡眠時間が6時間未満の人の死亡リスクが、7~9時間の人と比べて13%も高まるという結果もあり、6時間未満の人の睡眠を6時間以上にするだけで、7,570億ドルの経済効果があるともされているのです。

 睡眠は心身の健康を支える大切な仕組みであるのにも関わらず、「寝なくて済むのであれば、もっと仕事ができる」など睡眠そのものを社会全体として軽んじているということがあるのかもしれません。

 宮崎教授は、「睡眠は脳を維持するための必須の機構で疎かにはできません」と述べています。睡眠負債という言葉がありますが、例えば、毎日4時間の睡眠が2週間続くとそれ以降は、脳がずっと徹夜が続いているような状態になってしまいます。
 その結果、脳の偏桃体という情動反応をコントロールする部分が常時刺激を受け続けるようになり、いわゆる「キレやすい・・・」状態になってしまうことが解っているそうです。

 先ほど、睡眠は脳を維持するための必須の機構といいましたが、その一つが、「脳を守り修復する機能」になります。

 脳には、ニューロンと呼ばれる受けた刺激を他の細胞に伝達するための神経細胞が約1,000億個あるとされています。それをつなぐシナプスが神経伝達物質を介して絶えず情報をやり取りしていますので、その機能を修復するということです。

 また、睡眠そのものをコントロールする大きな柱に体内時計があります。以前にも言いましたようにヒトの体内時計の周期は24時間より少し長い周期になりますので、朝の日の光によってその周期を調整しています。

 実は、この「光を感じる・・・」ということが、脳の機能や睡眠に意外に大きな影響を与えているのです。

 ヒトは光を感じることで、交感神経が刺激されるとともに脊髄神経が刺激されます。日中に活動中に必死アミノ酸のトリプトファンからセロトニンが合成され覚醒が維持されることになります。
 
 そのセロトニンから、夜になるとメラトニンが合成され、脳に作用することで眠くなることが解っています。メラトニンは、原則的に昼間、光の影響を受けているときは分泌されず、いつもの就寝時間の3~4時間前になると分泌が始まり、1~2時間前に最大となってその後減少していきます。
 
その時、一時的に体温を上げることで熱を発散し、脳を中心とした温度を下げるのです。寒い冬や猛暑の時に寝つきが悪いというのは、この眠りにかかわる体温の発散がうまくいかないからと考えられています。

 この睡眠に大きなメカニズムの一つであるメラトニンは、先ほど言いましたように夜にならないと作られません。
電気がないころからの身体の仕組で考えれば、あらゆる光源としての光の影響を受けると考えれば、睡眠に入る前の光に関する環境が非常に多くの影響を与えると考えた方がいいのかもしれません

 光の中でも太陽光の8割を占めるといわれる青い光でメラトニンの分泌が抑制されることが解っています。文明化されていない時代では、この青い光は太陽光だけでしたが、現在では、パソコンやスマートフォンのブルーライトと呼ばれるものがこれに当てはまります。
 しかも、光源に非常に近いところに目を直接近づけて大きな刺激を受けている時間多くなってきている人の割合が増えてきている現状もあります。

 このブルーライトは、エネルギーが強く脳の奥の縫線核というところまで到達してしまうために交感神経への働きかけをしてしまいます。このために背中や顔の筋肉に働きかけ目を開いて、身体を起こすような動作を促してしまうそうなのです。

 就寝前の、テレビやパソコン、スマートフォンなどの利用についての睡眠への影響はこのようなメカニズムによって睡眠にとってマイナスの影響を受けているのです。

 暗くないと眠れない・・・、というのはしっかりと理由があると同時に、昔と比べると睡眠を阻害してしまうような生活習慣が身近にたくさんあることも意識することも必要になってきたかもしれません。





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Posted by toyohiko at 10:42│Comments(0)身体のしくみ
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