2019年12月05日
ヒトが消化吸収出来ないオリゴ糖の役割

オリゴ糖という言葉は「健康に良い・・・」というような事で耳にすることがあると思いますが、どのようなものかというと意外に知らない方も多いかもしれませんので、今回はオリゴ糖について考えてみたいと思います。
オリゴ糖というのは、難消化性の糖の総称という理解がいいのかもしれません。
難消化性ということは、糖の仲間であればすぐに消化されてエネルギーに変換されやすいものということになりますが、人間がその糖を分解するのに必要な消化酵素を持っていないために消化吸収できない糖類ということになります。
この消化吸収できない糖類であるオリゴ糖が何故「健康に良い・・・」といわれているかを紐解いてみたいと思います。
健康に関心のある方は、「母乳の主成分はオリゴ糖・・・」という話を聞いたことがある人もいるかと思いますが、人間の母乳には約130種類のオリゴ糖が含まれていることが解っています。
この130種というのは、ヒトに特有の性質と考えられており牛の場合は数種類しか含まれない事や、オリゴ糖そのものが妊娠期と授乳期の乳房組織でつくられるということから考えた時に、そこに重要な役割があると考えた研究者もいます。
シドニー大学のジェニー・ブランド・ミラー博士もその一人で、ヒトが消化できないにもかかわらずわざわざつくる必要がある理由の一つとして、「人間が自分自身のために腸内細菌を育てるための機能を有している・・・」と考えたのです。
そのような考えをもとに、様々な知見を組み合わせていくと人間は腸内細菌を育てるために機能をもっており、その腸内細菌の恩恵をもらっている共生関係を保とうとしてることがよくわかるというのです。
ビフィズス菌として有名な、ビフィドバクテリウム族の細菌は特殊な酵素を生成することができるためオリゴ糖を唯一の食糧源とするとされています。
そのビフィズス菌の代謝物として出てくるのが、乳酸、酢酸、酪酸、プロビオン酸などの短鎖脂肪酸です。その中でも乳幼児期に特に必要な物質が乳酸で、この乳酸は大腸の細胞に吸収されることで乳幼児期の免疫系の発達に重要な役割を果たすと考えらえているのです。
さらに、乳幼児期の腸内環境は成人に比べて非常に不安定なため、特定な細菌が急に増えたかと思うと、忽然と消えるというような事も普通にあるそうで、また肺炎連鎖球菌のような病原性の細菌が一つ入ってきただけで、大混乱を起こし、多くの有用菌が破壊されるようなことも少なくないのです。
だからこそ、「混乱した腸内環境を平常にする働きをするオリゴ糖」は不可欠なものなのです。
病原性の細菌は、腸内環境の破壊行為をする前に腸壁に付着するという性質があるようです。そのためには、細菌の表面にある特別な結合部のようなものを利用して付着します。
オリゴ糖は、その結合部にあらかじめぴったりとはまるという性質があるために、病原性細菌が腸壁に付着することを阻止することができるのです。
母乳に含まれる、約130種類のオリゴ糖の内、数十種類のものは特定の病原体に対して鍵と鍵穴のように結合することもわかっており、乳幼児期の感染防御に直接的な働きをしてるともいえます。
また、母乳に含まれるオリゴ糖は、出産直後は1ℓあたり小さじ4杯分の量あるものが、生後1年くらいになると四分の1ほどになることもわかっており、腸内細菌叢の安定に密接に関わっていることが、こういったことからも理解できると思います。
今までは、乳幼児期の話を中心にしてきましたが、成長した人間にとってオリゴ糖がどのような役割をしていくかを考えてみたいと思います。
近年、低炭水化物ダイエットが注目されていますが、実際に行っている人から、便の量が少なくなって残便感があるという話を耳にすることがあります。
この症状は、明らかに便秘になります。このことは、腸内細菌を中心に考えてみれば至極当たり前のこと・・・
ということになるのですが、ダイエットという目的に掻き消されてしまい、あまり意識しない方も多いと思います。もう少し説明をしますと、低炭水化物ダイエットの場合は、結果的に善玉菌のエサを減らし、悪玉菌のエサを増やす行為になっているケースが多いからです。
ご存知の方も多いかと思いますが、便秘は単に便の量が少ないとか、排便回数が少ないだけでなく悪玉菌による腸内腐敗を促進し有害物質を身体中に取り込んでしまう症状です。
ここで、覚えておいて欲しいのは、便の主成分は、「食べ物のカスではない・・・」ということです。水分を除いたほとんどが、「腸内細菌と剥がれ落ちた腸壁など・・・」になりますので、有用菌のエサが不足すれば、便の量が減ってしまい健康に影響が出てしまうのは、ある意味、「予測できること・・・」の一つになります。
実際に、低炭水化物ダイエットを実施している人の中には、このことを理解し、オリゴ糖や食物繊維を積極的に取り入れることで、以前よりも便の量や排便回数が増えたという事例も耳にすることがありますので、腸内細菌を育てるという意識で食生活を考え直すことは非常に大切なことの一つになります。
また、名古屋大学病院でも、術前のケアに乳酸菌やビフィズス菌の摂取に合わせてオリゴ糖の摂取を勧めることで、術後の合併症の予防・軽減にあるというようなシンバイオティクスの考え方を導入しています。
このことからしても、良い菌である善玉菌の存在はもちろんのこと、十分なエサであるオリゴ糖の存在は思っている以上に重要な要素であるといえるのです。