2020年09月12日
エネルギー代謝と腸内細菌代謝物

多くの生物にとって、生存していくために必要な免疫機能の発達やエネルギーの摂取に対して、様々な共生微生物との関係や役割が明らかになってきています。
特に腸内細菌との共生関係については、腸管に到達した食物繊維やオリゴ糖などの難消化性糖類などを栄養源とし、宿主に居住先を提供してもらいながら宿主にとって有益なエネルギーとなる栄養素を供給していると考えられています。
その代表的な栄養素が短鎖脂肪酸であり、全体のエネルギーの5~10%にも及ぶとされています。
また、近年の研究では、代謝された短鎖脂肪酸が単なるエネルギー源だけでなく代謝に関わるシグナル伝達因子として宿主に何らかの影響を与えている可能性に対しても関心が高まってきています。
京都大学薬学研究科の木村郁夫助教らの研究によりますと、交感神経細胞の集合体に豊富に存在する脂肪酸受容体であるGPR41という物質に対して、短鎖脂肪酸が作用しエネルギー消費量の増大を促したり、空腹時には逆に交感神経活性化を阻害することでエネルギー消費を抑制させることも解ってきたそうです。
つまり、近年話題になってきている「痩せ菌」という言葉に総称されるような、腸内細菌による宿主のエネルギー調節機構があることがメカニズム的に明らかになりつつあるという事です。
このような、短鎖脂肪酸と交感神経との関係のような共生微生物の代謝物による宿主への身体的影響については、代謝物の種類も含め未知の相関関係といえるようなものが数多く存在すると考えられています。
糖の代謝に関しても、富山大学付属病院の藤坂志帆助教によりますと、マウスの実験によって腸内細菌叢の減少によって、ヒトの慢性腎臓病および血管疾患の発症と進行に関連していることが知られているインドキシル硫量が増大し、糖の代謝が悪化したことを明らかにしています。
このインドキシル硫酸はアミノ酸由来の腸内細菌由来の代謝物として知られているもので、よく言われる善玉菌・悪玉菌・日和見菌という分類の中で、共生微生物の代謝物が、必ずしもプラスのみに働いているわけではないという事も知っておく必要があります。
前出の藤坂志帆助教は「腸内細菌組成を決定する最大のドライバーは食事である・・・」と述べています。
未知の部分は数多くありますが、腸内細菌の代謝物が宿主に及ぼすプラスの効果が次第に明らかになっている昨今の状況を考えますと、プロバイオティクスとして日常生活の習慣に取り入れるために必要な要素の一つとして、「生きて腸まで届く・・・」が必須なのかもしれません。