2020年06月11日
子どもの肥満とお母さんの腸内フローラ

近年、痩せ菌とかデブ菌という言葉を耳にするようになり、人間の代謝と腸内フローラとの関係について多くの人が関心を寄せるようになってきました。
東京農工大学大学院農学研究院代謝機能制御学研究室と慶応義塾大学薬学部などの研究グループが、アメリカのScience誌2020.2.28号にて母体の腸内フローラと胎児の発達、さらに出生後の疾患などの及ぼす影響についてマウスの実験の報告がありますのでご紹介させていただきます。
この実験は、妊娠したマウスを通常環境下と無菌環境下の二つの環境に分け、それぞれ、食物繊維を多く含んだエサを与えたグループとそうでないグループの二つと、4つのグループに分類して行われました。
その4つのグループに対して分娩後、マウスの仔に離乳後高脂肪食を与え、高血糖や高脂血症などの症状を観察していくという実験になります。
腸内細菌の働きをよく理解している人には、ここで、結果の予測がつくかもしれませんが、4つのパターンの中で、3つのグループに肥満傾向がみられたという事です。
その3つのグループというのは無菌環境下の妊娠マウスの仔と食物繊維を殆ど摂取しなかったグループです。
この結果からしますと、無菌という環境のマイナスの影響と食物繊維の不足が肥満に対して大きな影響を及ぼすことも含め、腸内細菌が大きく関わっているという裏付けになります。
今回の実験の興味深い点は、さらに善玉菌や日和見菌の代謝物である短鎖脂肪酸のプロビオン酸を妊娠中の親マウスに与えてさらに比較したことです。
このプロビオン酸を与えることによって、最初の実験で肥満の傾向がみられた3つの全てのグループで、出産後の仔の肥満の抑制がみられたという事です。
これらの結果について、善玉菌や日和見菌の代謝物質である短鎖脂肪酸をお腹の中の胎児が感知することで、仔の代謝・内分泌系に関わる細胞やホルモンの分化を促し、成長時のエネルギー代謝を整えることで、肥満になりにくい体質をつくることを明らかにしたと述べられています。
今回の結果は、マウスの実験によるものになりますので、これからの人による臨床実験に大きな期待が・・・という事になると思いますが、妊娠中の母親の食事がもたらす腸内フローラからの産生物が出産後の子どものエネルギー代謝にも影響を与えることが示唆されたことになります。
善玉菌や日和見菌の代謝する短鎖脂肪酸については、「痩せ菌」という通称にも大きな影響を与える物質のひとつとして、近年注目を集めています。
この短鎖脂肪酸が腸内で豊富な状態にしていくには「日和見菌を味方につける・・・」ことが、重要になります、今回の実験は食物繊維を中心に摂取するという実験でしたが、オリゴ糖などのプレバイオティクスも有効である可能性があることも言うまでもありません。
現在問題になっている、生活習慣病に大きく関わっている事の一つに、代謝異常による慢性炎症が注目されています。その症状の典型的なものが万病のもとといわれる糖尿病です。
腸内細菌を利用し、短鎖脂肪酸をふやしていくことでそれらの課題解決につながるということであるのであれば、プロバイオティクスとプレバイオティクスを相乗的に利用するシンバイオティクスの考え方を普段の食事も含めた生活習慣に取り入れる意味は、これからもますます大きくなってくるような気がします。