2020年10月16日
感染症とトータルオーラルケア

これから、本格的な寒さを迎え、インフルエンザや新型コロナウィルスへの不安が高まりつつあります。そんな中、感染症予防の観点から、先日、日本歯科医師会が主催する「歯と口の健康シンポジウム 2020」がweb配信にて行われましたのでご紹介させていただきます。
このシンポジウムでは、新型コロナウィルスをはじめとする様々な感染症の予防と歯磨きを代表とする口腔内のケアに関する内容で、神奈川歯科大学 槻木恵一副学長の講演に引き続き、東京歯科大学市川総合病院呼吸器内科 寺嶋毅教授とのパネルディスカッション、さらには、歯科衛生士によるブラッシング講座という形で行われました。
コロナ禍の中で、「マスク生活」というものが普通になりつつあります。そのような中、「自分のマスクの臭いが気になる・・・」人が急増し、話題になっています。
これは唾液の減少によるものなのではと考えられているようです。唾液の減少の要因として考えられるのは、「口呼吸」「会話の減少による口を動かさない頻度の上昇」「ストレス」「口の渇きに関するサインが出にくくなるための脱水症状」などがあげられます。
このような唾液の減少の結果、口腔内の細菌・・・特に歯周病などの口腔内の悪玉菌の増加によって「嫌な臭い・・・」が発生してしまうのです。
口腔内の細菌数は便よりも多いと考えられています。特に就寝中の細菌やウィルスの増加は目を見張るものがあります。そのような状況のなか1日当たり1,500mlともいわれる唾液が様々な役割をしていますので、その唾液の質と量が大切なのだそうです。
唾液中の0.5%には様々な抗菌成分が含まれています。特にIgAという粘膜面を保護するための抗体が多く含まれており大きな役割をしています。このIgAの量は通常1日当たり50~100mgといわれていますが、この量の30%を下回ると上気道感染症の発症リスクが急激に高くなることがアスリートを対象とした研究などによって明らかになっています。
特に、このメカニズムに対しては口腔内に侵入した、上気道感染症の発症に関与するウィルスが口腔内の粘膜質に吸着し発症に至るのですが、この粘膜質への吸着を防ぐ働きをIgA抗体が担ってくれていることと関係していると考えられています。
この唾液内のIgAに関しては、発酵乳やそのほかの発酵食品によって腸内環境が良くなることで唾液内のIgA抗体の量が増加するというような実験結果もあるようです。
これは、全身の免疫活性が上がるという事とも連動しており腸と口腔というものの関係は、消化管の入口である「口」という事だけでなく、免疫システムなども含めた複雑な相関関係があるという事で、専門家の中でも「腸唾液間相関」とう考え方が高い関心を集めています。
また、口腔内の悪玉菌が優勢な状態になっていると、ジンジバリスなどの歯周病菌が産生するプロテアーゼという感染促進因子が、インフルエンザの感染を促進することも解っています。さらには、唾液中のIgA抗体も口腔内の悪玉菌が多い環境では効果的に働くことが出来ません、これは腸内環境によって善玉菌といわれるグループの腸内細菌がうまく働かない事ともよく似ています。
歯周病のリスクは糖尿病をはじめ、関節リウマチ、掌蹠膿疱症、大腸がん、認知症と特定の器官のみではなく、全身の様々なところに影響を及ぼしていることが解ってきています。
最近話題となっています新型コロナウィルスについて言えば、舌苔に新型コロナウィルスの侵入に必要な感染促進因子があることが解ってきたようです。また、歯周ポケットにも新型コロナウィルスが侵入に必要な物質が産生されていることも解ってきましたので、歯周ポケットも感染の入口になりうる可能性を考えていかないとなりません。
そのためには、「あさイチ歯磨き」も含めた丁寧なブラッシングによる「歯磨き」、「舌磨き」、唾液中の感染予防成分を十分に確保するための質と量を意識した「唾液ケア」の3つのオーラルケアを意識していく事がこれらから来るであろう冬の感染症対策にも重要な役割をしています。
唾液ケアは、先ほどの腸唾液間相関の考えたかたからも腸内環境を整えるような食生活を心掛けることで、全身の免疫力アップと唾液中の抗体成分などの質の向上につながりますので、もちろん食生活も大切ですね。
Posted by toyohiko at 11:37│Comments(0)
│身体のしくみ