2020年11月06日
良い肥満と腸内環境

日本肥満学会で決められていますBMI25以上の肥満と呼ばれる人の中で、「良い肥満」と呼ばれる人がアメリカとヨーロッパでの12万人を対象とした研究によると24%程度いるといわれています。
この「良い肥満」ということについて考えてみたいと思います。
肥満は健康にとってマイナスなイメージがあるという事については、多くの人が認めるのかもしれませんが、その中でも身体の様々な指標を見てみても生活習慣病のリスクが殆どないといえるような健康状態の人がいることも事実です。かのクレオパトラのBMIは29.4であったとも言われています。
これもBMIを軸とした集団の統計結果から言われてきたものであり、身体について様々な情報が明らかになってくることで、一言で「肥満」と言ってもタイプが重要視されるようになってきました。
肥満については、「太った・・・」と言われるたびにストレスを抱え込み、過食などを助長することで体重の増加を招くという話もあるそうで、複雑な要因によって引き起こされるものと考えられていますが、そのような中、生活習慣病などになるリスクの少ない「良い肥満」という視点での研究も進んできています。
慶応義塾大学腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕教授によりますと、肥満による健康リスクのポイントは内臓脂肪と述べています。
また、皮下脂肪は女性ホルモンの影響を受け皮下に脂肪をためやすくする作用があることもあり、内臓脂肪の割合が多い人は男性の方が多いとされています。また、食生活も含めて暴飲・暴食の機会が男性の方が多いことも上げられます。
伊藤教授は、内臓脂肪は、悪玉菌が産生した物質を攻撃する免疫細胞によって引き起こされる炎症の影響を受けやすく、さらに腸管の周りにある肥大した脂肪細胞についても悪玉菌が産生した有害物質と同様に攻撃するために炎症そのものがお腹の内部まで広がっていく事で様々な疾病リスクに繋がってしまうそうです。
特に、腸内環境が乱れ悪玉菌が優勢になってくると有害物質の量も多くなってしまうために炎症そのものもひどくなってしまいます。
腸管の周りは、腸管神経を始め様々な神経があり、脳腸相関をつかさどるメカニズムの中枢にもなるため、このような炎症は身体全体の健康にとって様々なリスクに繋がってくることが考えられます。
その一方で、同じ脂肪でも皮下脂肪の場合は腸から離れているため、脂肪細胞自身の炎症が起きにくいとされています。
大阪大学内分泌代謝内科学の前田法一准教授は、マウスに高脂肪食を与え脂肪細胞の変化を8週間に渡り観察した結果、肥大した脂肪細胞を自然免疫系の一つであるマクロファージが攻撃をし始めることについて報告しています。
これは、脂肪細胞がだすホルモンに関係していると考えられており、肥大した脂肪細胞と普通の細胞では違うホルモンが出ていることによって引き起こされるとしています。
良い状態では動脈硬化や糖尿病を防ぐ働きがあるアディポネクチンが産生し、肥大した脂肪細胞の場合は、TNF-αなど生活習慣病のリスクを高める物質が出てくるために炎症が進んでしまうのです。
内臓脂肪のリスクがこのような免疫システムによる炎症によって起きてしまうのです。このような現象は、皮下脂肪との関係もあり皮下脂肪をためるための容量にも関係していると言われており、皮下脂肪をためやすい体質の人の方が同じ脂肪量でも、健康に関するリスクが少ない「良い肥満」とされています。
このような皮下脂肪をためやすいというような体質は欧米人に多いとされていますが、同じ脂肪量でも皮下脂肪の方を優勢にしていくには脂肪細胞への酸化ストレスを減少させることで一定の効果も表れると考えられています。具体的には、明るく前向きに考える、リラックスする、適度な運動、女性ホルモンを高めることなどが有効と考えられています。
最後の女性ホルモンは、男女ともにありますので女性だけのものではありませんし、男性ホルモンが多い人は女性ホルモンも多いということのようです。
女性ホルモンの高い人の、目に見えるバロメーターとしては、男女にかかわらず「熱中するものがある・・・」「コミュニケーションが取れているという気持ちが持てる・・・」「肌つやが良い・・・」という特徴があるようなのでこのようなことを意識してみることも良いかもしれません。
更に、女性ホルモンが多い人はアディポネクチンが多いことが解っています。このアディポネクチンは腸内環境が良好で腸管内での免疫系の暴走が抑えられることで、良い脂肪細胞から産生することが知られています。
これらのことは「ヒト細菌叢プロジェクト」で、ニューヨーク大学医学研究科のMartin J.Blaser教授によって提唱されているアメリカ国内州別の肥満率の分布と抗生物質の分布との非常に強い相関関係があるという事についても、「良い肥満」と腸内環境との関係のメカニズムの解明の糸口と考えることが出来るのかもしれません。
多くの人は視覚情報から様々な判断を行い、「ジェンダー」や「痩せているとか太っている」というような大きな枠組みの属性を重要視しがちですが、様々な分野で言われています「個の違い」の大きさに注目することの方が重要であるというダイバーシティ(多様性)の流れが、健康の世界にも出てきたという事なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 12:21│Comments(0)
│身体のしくみ