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2017年11月02日

乳酸菌研究のいま・・・(Ⅶ) 失われていく腸内フローラ仮説

乳酸菌研究のいま・・・(Ⅶ) 失われていく腸内フローラ仮説


 現在、アメリカでは肥満率31.8%という肥満という生活習慣病に悩まされています。先日、世界最大級の清涼飲料メーカーが「次代の甘味料を探し出してくれたら100万ドルを差し上げます・・・」という打ち出しをしたり、WHO(世界保健機関)が「砂糖を中心とした食品に課税をするような仕組みを促進したり・・・」ということも、このような社会的な背景があると言われています。

 先日行われた、第26回腸内フローラシンポジウムで行われました、世界的な微生物研究の権威とも言われ、ニューヨーク大学の「ヒト細菌叢プロジェクト」を率いている、ニューヨーク大学医学研究科のMartin J.Blaser教授の特別講演の内容を紹介します。

 Martin J.Blaser教授が着目したのは、アメリカ国内州別の肥満率の分布と抗生物質(aitibaiotics)の分布が酷似しており、非常に強い相関会計があるというアプローチから「腸内細菌への抗生物質の影響」という視点での研究でした。

 アメリカ国内での抗生物質の使用量については社会的にも大きな課題として考えられており、スエーデンと比較しても、人口当たりの使用量が40%以上となっているようです。

 また、肥満、喘息、若年性糖尿病、炎症性腸疾患、食物アレルギーなどの疾患が、近年同じタイミングで拡大しているという事象にもっと目を向ける必要があると言ってます。

  Martin J.Blaser教授は、「この同じタイミングで・・・」の原因を3つのアプローチで考えることによって原因究明の糸口になるのではと考えているようです。

1番目は、腸内フローラの主要な構成は数百年以上前から、親子間等の垂直伝搬をしていること。

2番目は、腸内フローラが発達、形成する時期がおよそ三歳までの幼少期であること。

3番目は、腸内フローラと宿主との間の相互作用によりバランスを取りながら進化したことにより、細菌そのものが、数年もしくは数十年間にわたって、持続定着する能力を得た可能性が高い。

という考え方でした。

その視点で考えると、第二次世界大戦以降、食生活や健康管理法が劇的に変化したことで、先祖代々伝搬してきた「持続定着能力のある細菌」が、ここ数世代にわたって累積的に無くなってきているのでは・・・と考えているようです。

特に、「持続定着能力のある細菌」と言われる常在嫌気性菌から構成される腸内フローラの形成は幼年期に形成されるために、幼年期の生活環境の変化に関しては大きく注目していく必要があります。

特に、抗生物質に関して言えば、腸内フローラに対しては、「殺菌」という、大きな攪乱効果がもたらされることは云うまでもありません。更に、抗生物質の効果は選択的に特定の菌株にのみ作用するという保証は無く、意図せぬ効果・影響を及ぼす可能性は十分にあるということです。

 Martin J.Blaser教授によりますと、「抗生物質は、世界中の腸内フローラ消失に影響を与えるレベルまで達しており、これにともなって、腸内フローラの回復機能が備わっていない小さな子どもや疾患を抱えた人はなおさらである。」と述べています。

これらの仮説を検証するために、現在、マウスなどでの実験を行っていますが、幼年期の抗生物質の投与に関しては、腸内フローラの攪乱によって、食事によって摂取する栄養成分の身体への影響が増強されてしまい、幼年期のこの影響が、その後の成長についても長期的な影響と言われるようなものにつながることもわかったきたようです。

 これは、免疫システムなど様々なところに影響を与え、この影響が次の世代への垂直伝播という形で、長期にわたり影響が続いてしまう可能性すらあるということのようです。

たしかに、抗生物質は目前の感染症などの疾患に対して大きな効果をもたらしています。その効果で、命を取り留めた人も数多くいることも事実です。

その一方で、長期間にわたる「負の影響」がお腹の中に「乱れた腸内フローラ」として定着し、それが子どもへと受け継がれるという可能性があるとしたら、この有益な腸内細菌を取り戻すための方法を具体的に講じていく必要性を感じます。

この話を聞く中で、以前、製薬会社の方が、「抗生物質を飲むときは、乳酸菌の入った飲料などを一緒に飲むと、便秘や下痢になり難いですよ・・・」と言っていた話を思い出しました。

「お腹の健康を守る」事が、多くの疾病の予防につながり、次の世代への遺産にもなるのかもしれませんね。




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