2021年01月08日
脳は第二の腸なのか・・・脳と腸―腸内細菌との関係を考える

「何を食べたいか・・・」を考えるのは身体のどこ・・・? という質問にはどのような答えをしますでしょうか・・・。
多くの方は、迷わず「脳・・・」という答えをするでしょうが、どうやら近年の様々な研究の中で、「腸・・・」もしくは、「腸内細菌・・・」なのかもしれないという仮説のもと、様々な議論がなされるようになってきました。
私たちが普段使っている感情を表す言葉についても、「腸・・・」や「お腹・・・」という言葉で強い感情を表しています。
例えば、「腸(はらわた)が煮えくり返る」、「断腸の想い」、「腹の虫が収まらない」など・・・。
この「腹の虫」についても、腸内細菌のことを指しているのかもしれないというような発想もあるようです。
また、偏食の最たる生物の代表である昆虫についても、他の種の「腹の虫」かもしれない腸内細菌を入れ替えることで、元の宿主の食べていたものを中心的に食べるようになるという報告もあるという事からしても、「何を食べたいか・・・」だけでなく、身体の中の多くのことを腸がコントロールしている可能性も否定できなくなってきているようです。
ご存知の方もいると思いますが、腸があっても脳がない生物は、世の中には数多く存在しています。ヒドラはその代表的な存在の生き物ですが、脳だけでなく心臓や血管もなく、「腸管神経」という意思をもって捕食と排泄を繰り返しながら生命を維持しているというような生物もいるのです。
東北大学大学院医学系研究科の福土審教授は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質について、「そもそも腸で使われていたものが、脳の中でも使われるようになった・・・」と述べ、腸の神経から脳という仕組みを進化の過程でつくり出したという説の有効性を示唆しています。
実際に、腸の神経細胞は、脳の神経細胞と全く同じものとされています。
さらに、腸も脳も同じ神経伝達物質を使っており、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの場合、腸では蠕動運動を引き起こす役割をしていそうです。
このことは、ストレスと便通の関係を考えると身に覚えのある人も多いかと思いますし、便秘傾向の排便回数が週5回以下を基本とした大学生の女性92名で行った実験では、Bifidobacterium breveヤクルト株,Streptococcus thermophilus,Lactococcus lactis,ガラクトオリゴ糖およびポリデキストロースを含む発酵乳の摂取による排便への影響について,ストレスレベル別に調べてみたところ、ストレスは,排便に対する発酵乳の飲用効果に,負の影響を与える可能性が示唆されたとの報告がありました。
このことは、ストレスはプロバイオティクスやプレバイオティクスが与える腸内フローラへのプラス効果をも帳消しにしてしまう可能性があるとともに、脳と腸との深いかかわりを示しています。
更に、脳と腸の関係についての研究事例を探ってみますと、L.カゼイ・シロタ株(YIT9029)をプロバイオティクスとして利用した実験では、ストレスの軽減や睡眠の質の向上というような結果を示すものもあります。
これは、腸内細菌が脳腸相関を介して脳に刺激を与えることで、全身の恒常性を調節することにより身体が本来持っている「自然治癒力」や、恒常性が崩れたときの「回復力(レジリエンス)」を高めることを示していると言えます。
この研究を行った、ヤクルト中央研究所医薬品研究所長の河合光久主席研究員は「このような、「腸内細菌-腸-脳相関」の関係性に於いてプロバイオティクスが薬のように一つの症状を軽減するということではなく、身体全体の恒常性を維持することで、結果的に多彩な作用を示すのでは・・・。」と述べています。
脳と腸・・・そして「腹の虫」と言われる?腸内細菌との関係性の解明は、これからのストレス社会にとって大きな期待になるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 17:16│Comments(0)
│身体のしくみ