2021年03月19日
「皮膚感覚を考える」・・・皮膚は0番目の脳

「皮膚感覚」という言葉をよく耳にすることがあると思いますが、この言葉は一つの意味ではなく、様々な意味でつかわれることが多いと思います。この言葉を使う場面として、直接触れた触覚としての感覚を表現する場合もあれば、直接触れることなく全体から感じる直感的な感性を表したり、「場の空気」と言われるような、そこにいる人たちの緊張や安堵などの感情の状態を表す場合もあります。
ここでも紹介しましたように、直接触れる場合も、触れていない場合も皮膚感覚という言葉を使いますが、果たして皮膚そのものを感覚器官として考えた場合にどのように違うのでしょうか・・・?
資生堂グローバルイノベーションセンターシニアサイエンティスト傳田光洋氏によりますと、皮膚は触覚という機能だけでなく、様々なセンサーとしてのメカニズムを持っているのだそうです。
皮膚のセンサーとして多くの方がご存じなのが、触覚としての痛みや温度です。しかしながら、傳田氏によりますと、光を感じることが出来る機能もあるというのです。
皮膚には、網膜にある色を区別する光の受容体であるオプシンが存在することが解ってきており、脳は気付いていないが皮膚が独自に区別していると考えられているのです。
そもそも、皮膚のセンサーは、外部環境の変化に対応するための危機管理能力の一つとして重要な役割をしており、同時に膨大な情報を処理するために、進化の過程で体毛が無くなってきた頃から脳が発達したと考えられています。
そのために、皮膚は頭で考えるよりも先に必要なものを得ようとしているのです。
「身の毛がよだつ」、「殺気」と言われるものは感覚という言葉で表されていますが、実際に皮膚で感じており、身に降りかかる危機を目や耳に感じる前に感じられるからこそ、体毛が無くなってきた種が進化の過程で生き延び出来た可能性は否定できないと考えられています。
更に皮膚には、光だけでなく、味(甘味、うまみ、酸味)、においを感じる受容体があることが解ってきており、お香(白檀)の香で傷の治りが早くなるという報告もあります。
また、国立精神・神経医療研究センター本田学部長によりますと、皮膚には聴覚もあり、超高周波音を皮膚で聞いているというのです。
超高周波音というのは、自然界に多く、「川のせせらぎ」や「鳥のさえずり」、「草木のざわめき」に多く含まれている周波数帯で、脳の報酬系神経回路を活性化すると言われている耳では聞こえない音です。
これらのように、皮膚には触覚だけでなく、視覚、味覚、聴覚までも備わっていて、脳と同じように情報を処理する仕組みがあり、私たちの健康な生活を様々な面で支えているのです。
裸族と言われるような、裸で暮らす習慣がある人たちは人の気配に敏感であったり、天気が判ったり、赤ちゃんが無駄な泣き方をしないという事も肌の様々なセンサー機能に関係しているのかもしれないと言われています。
京都大学大学院教育学研究科 明和政子教授によりますと、皮膚の役割は皮膚を通して相手に触れるという「生まれたばかりの赤ちゃんが最も早く使うセンサー・・・」という意味で非常に重要な役割をしているそうです。
触覚と脳の活動は大変密接な関係があり、「視覚」「触覚」「聴覚」では脳の刺激は異なり、「触覚」が一番多く、触覚経験が赤ちゃんの脳の発達をけん引している・・・とも言われています。
ホモサピエンスは出産後自立できないなども含めて、非常に脆弱であることからも「他のものに頼ることを必要」としているのです。そのため、胎児は触覚を通して世界を知ることで生存の可能性を高めているという説もあります。
幸せホルモンと呼ばれる「オキシトシン」も触れ合うことで、脳でつくられるということが知られていますが、実は、脳だけでなく表皮でも作られていることが解ってきました。
これらのことは、近年、「脳腸相関」という言葉が注目されていますが、さらに「脳腸皮膚相関」と呼ばれるようなもののメカニズムの解明につながっていくのかもしれません。
前出の明和政子教授は、発達の過程で、「触覚が五感の中で一番最初に出来る器官・・・」ということと併せて、「皮膚を介した身体接触が脳を育て、特に子どものような発育期には他者との身体接触を通じて心を学ぶ・・・」とも述べています。
皮膚は、単に「身体を覆っているもの・・・」なのではなく、ありとあらゆるセンサーを持ち腸と同じく、独立した器官として脳と相互の関係性を保っている非常に重要なものと考えを改める必要があるのかもしれません。
それゆえに、「腸は0番目の脳・・・」というような言葉もあるのでしょうね。
Posted by toyohiko at 10:53│Comments(0)
│身体のしくみ