2021年04月02日
プロバイオティクスからサイコバイオティクスという進化 「脳腸相関」から「腸内細菌―腸―脳軸相関」へ

サイコバイオティクスという言葉を聞いたことがありますでしょうか・・・?
サイコは「精神」などを表す言葉で、精神疾患などを表現するときに用いられることが多かったりすることもありますので特別なイメージがある方も多いと思いますが、サイコバイオティクスとは、アイルランドの研究者などが中心となり提唱している「新しいストレス対処法」の一つで、プロバイオティクスの発展形として注目され始めている言葉です。
そもそも、腸内細菌とメンタルヘルスとの関係性についての研究の歴史は長く、1910年に英国の精神医学に関する学術誌British Journal of Psychiatryに掲載された論文でプロバイオティクスの投与によって鬱症状が改善されたという報告や、ロシアで1984年に行われた宇宙飛行士を対象とした研究では、平常時に対して宇宙飛行の1か月前から善玉菌の低下と悪玉菌の上昇がみられ、腸内環境の乱れが起こることが報告されていることからも古くて新しい分野ともいえるのかもしれません。
九州大学心身医学研究院の須藤信行教授によりますと、ストレスと腸内細菌には何らかの関係性があるという事は以前から解っていたと言います。
具体的には、ヒトなどの宿主にストレスがかかるとラクトバチルスなどの善玉菌が減り、バクテロイディスやクロストリジウムなどの悪玉菌が増加することは数十年以上前から知られていました。
また、ストレスによる身体の変化は、交感神経系に負荷がかかり、脈拍が上昇したり、内分泌系に対しては、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの分泌が多くなることが解っていますが、コルチゾールの上昇は意識には表れないという特徴があります。
さらにストレスの身体に対する顕著な症状が「睡眠に関する障害」と言われています。
ストレスと睡眠の関係は、コルチゾールとメラトニン生成の反比例の関係性のメカニズムによっても説明されています。
そのような中、「腸内細菌が変わるとストレスに対する反応性も変わるのでは・・・・?」「腸内細菌が変わると行動が変わるのでは・・・?」という仮説のもと、須藤教授によって行われた実験の紹介をさせていただきます。
腸内細菌が全くない状態を人工的に作り出した「無菌マウス」、そして、1種類だけの菌株を腸内に定着させた「1種類だけの腸内細菌を持つマウス」、さらに「通常のマウス」の3種類のマウスに対して、ストレス反応及び行動の変化に対しての差を比べると、「無菌マウス」の場合はストレス反応のマーカーとなるACTHとコルチコステロンなどの値が大きく過大反応するという結果が得られたと同時に、行動レベルでも多動性が高く、「単一の腸内細菌マウス」の場合にはビフィズス菌などの善玉菌の場合のみに「通常マウス」と同じレベルのストレス反応や行動の落ち着きがみられたという結果になりました。
このことからも「腸内細菌の多様性や菌株の種類」と「ストレス反応」との間に明らかな関係性があることが示唆されています。
須藤教授は、このような実験を通じて、「短鎖脂肪酸」の役割について以下のように述べています。脳をつくっている需要な細胞の一つであるグリア細胞のひとつのミクログリアに短鎖脂肪酸が作用することで、脳の様々な機能に対して変化をもたらしていることが解ってきたというのです。
この短鎖脂肪酸は、善玉菌と呼ばれるようなプロバイオティクスが腸管内でプレバイオティクスを利用し産生していることは良く知られていますが、腸内細菌がいない無菌マウスのような個体には短鎖脂肪酸は存在しないというのです。
つまり、脳の神経系に重要な働きかけをしている短鎖脂肪酸は腸内細菌のみが作っている事にもなります。
さらに興味深いのは、腸管神経がドーパミンと呼ばれる脳の報酬系につながっており、報酬系につながっているということで「快い・・・」という感覚を得ることが出来るのではないかという事を示唆しているのです。
これは、腸内細菌―腸―脳軸というそれぞれの関係において、腸内細菌による様々が刺激によってストレスにたいする対応力が高まるというメカニズムになっているのではとしています。
近年、脳腸相関という言葉が使われ始めましたが、脳の健康のためには、「腸」という消化管だけでなく、その器官の中で共生している「腸内細菌」の存在の重要性がますます増してきたのかもしれません。
Posted by toyohiko at 09:24│Comments(0)
│身体のしくみ