2021年08月20日
ポストバイオティクスという考え方

プロバイオティクスという言葉が、1989年にイギリスの微生物生態学者、ロイ・フーラー博士が提唱して以来、プレバイオティクス、さらにはシンバイオティクスというような人間にとっての有用な微生物に関する様々な概念が提唱されてきました。
これらの概念は、ISAPP(国際プロバイオティクス-プレバイオティクス学術機関)において、その定義や考え方について精力的に提言がなされているなか、今日に至っています。
例えば、ISAPPでは、プロバイオティクスについて、「適正な量を摂取したときに、宿主の健康に有益な作用をもたらす生きた微生物」と表現しています。
これは、「安全性が十分に保証されている」「もともと腸内フローラの一員である」「胃液や胆汁に耐えて腸内に到達できること」「腸内に付着し、増殖できること」「食品の形態を保ち、有効な菌数が維持されていること」「安価で容易に取り扱えること」など、現在考えられる五つの要件を表したものとされています。
また、プレバイオティクスについても、「宿主微生物により選択的に利用された結果、宿主の健康上の利益をもたらす基質」とされ、プロバイオティクスが微生物自身の独自の健康に対する有用性を発揮することに対して、プレバイオティクスはプロバイオティクスも含めた宿主の体内に内在する常在菌を中心とした有用菌を活性化するための微生物自身の栄養源という事になります。
この二つを合わせたものがシンバイオティクスと言われるものになりますが、この3つの定義に於いて重要なのが、「生きた微生物」を対象とした考え方という事です。
当然、健康に対しての有用な働きには短鎖脂肪酸をはじめとする様々な代謝物やクロストークと言われる微生物同士やそのほかの器官との様々な伝達に関わる物質も、これらの効果に関わっています。
しかしながら、プロバイオティクスの定義には含まれない不活化した菌体や、加熱による死菌や微生物の細胞壁が崩壊してしまった溶菌のような状態の微生物の宿主への有用性についても免疫システムへの働きを始めとし以前から解っていたことも数多くあります。
つまり、生きていない微生物を対象とし、「宿主の健康に有効な作用を発揮する不活化菌体やその構成成分」とい説明されるポストバイオティクスという概念が提唱されつつあるというのです。
ガン細胞などの異型細胞を食べてしまう貪食細胞としてよく知られているマクロファージは、乳酸菌なども取り込んで殺菌・消化することが解っています。
そのような中、乳酸菌の細胞壁の構造の違いが消化作用に影響を与えることで、マクロファージ自身の活性化に大きな影響を与えるような特性をもった乳酸菌も存在するという事も、様々な研究によって明らかになりつつあります。
例えば、L.カゼイ・シロタ株(YIT9018)の過熱死菌体は、不活化した状態でも細胞壁の構造変化がなく強いマクロファージの活性を促す事がわかっています。そのことを応用し、1990年に免疫療法抗がん剤「LC-9018」として製造承認申請がなされ、その後「子宮頸がんに対する放射線療法と組み合わせたLC9018の効果」など様々な臨床及び研究が行われているというような事例もあります。
プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスに続いて、ポストバイオティクスという様々な考え方が生まれてくる中、人の健康と様々な微生物との関係の可能性がこれから益々広がっていきそうですね。