2021年10月01日
感情と睡眠との関係を考える

睡眠の大切さについては、交通事故や欠勤、疾病などによる労働時間の損失などを総合評価すると日本の損失額はGDPの約3%にあたる15兆円とも言われていますので、体調の話だけでなく、社会的な様々な場面においての影響が出ていることはすでにご存知かと思います。
個人的なレベルで考えると、「物事に集中できない・・・」「なんだかイライラする・・・」などの身近な影響は、多くの人にも経験があると思います。
今回は、この「イライラ・・・」につながる感情と睡眠の関係性について考えていきたいと思います。
夜、寝ようとして床にはいってからその日の出来事を思い起こして不安になったりすることは無いでしょうか。
その一方で、朝起きてみると「その不安」に対して、「大した事じゃない・・・」とか「何とでもなる・・・」というように、寝る前の不安な感情がずいぶん和らいで「楽になった・・・」という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
スウェーデン・ウプサラ大学准教授であり神経科学者のクリスティアン・ベネディクトは著書SLEEP SLEEP SLEEPで感情とレム睡眠との関係を以下のように説明しています。
「レム睡眠のおかげで私たちは、自分の感情とうまく付き合い、それによって精神的なバランスを維持できる・・・」
レム睡眠中には、感情の中枢である脳の偏桃体の活動が活発になります。その時に「子どもの時に親にきつく叱られた場面」や「恋人やパートナーと出会った瞬間」などの過去の出来事が睡眠中によみがえることがあると言います。
この情景が色々な形で夢となり意識していくわけですが、レム睡眠中にそのような感情的な記憶からドラマティックな部分をそぎ落として理性的な記憶に組み替えていくというのだそうです。
具体的には、脳の危機管理の一翼を担うために様々な危機を察知する扁桃体と、ストレスマネジメントや衝動抑制を司る前頭葉が、レム睡眠中にうまく連携をしていくことで記憶を相対化し、気持ちを和らげる働きをするのだそうです。
著書SLEEP SLEEP SLEEPでは、「感情に結びついた記憶のトゲ」という表現を用いていますが、そのトゲを丸める作業によって、人間が本来持ってる感情の処理手法であり、そのプロセスによって特定の感情に憑りつかれたり、感情の乱れを引き起こすことから免れることができるとされています。
このような現象は、「銃を突きつけて脅す人物の写真」のように不快なものを見せる実験によっても証明されています。実験ではこのような写真を就寝前に見てもらい、翌朝もう一度見てもらうというものですが、この時に徹夜してもらうグループと睡眠を普通にとったグループの二つに分けてMRIで脳の状態を調べたところ、徹夜したグループは偏桃体の活動が活発だったのに対して、睡眠をとったグループは前頭葉の方が活発であったという結果になりました。
この結果からしても、睡眠によって偏桃体が感じ取った感情やストレスを前頭葉とうまく連携することで衝動抑制と言われるような気持ちを和らげる効果があることを脳の働きから確認できたという事にもなります。
睡眠不足によるリスクは様々ですが、ストレスを感じやすくなってしまったり、感情の抑えがうまくいかないような、身近な人間関係や社会生活に関わることがあるとすれば「睡眠」というものを大切にすることが、単に経済的な評価だけではなく自身のQOLにも大きく関わっている認識も必要なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 12:55│Comments(0)
│身体のしくみ