2021年10月30日
睡眠不足と糖代謝との関係を考える

睡眠不足による身体に及ぼす影響は数多く、多岐に渡ることは既にご存知かと思います。その中でも、食欲に関することや、肥満に関するリスクの増加などは多くの方が関心を寄せられているかと思います。
以前にも、ご紹介させていただきましたが、「一晩の睡眠不足で翌朝の熱産生量が20%も減少し、1日の睡眠時間が7時間未満の人は7~8時間の人に比べて、肥満になるリスクが50%も上昇する」という報告がありますが、今回はエネルギー代謝の中でも大きな割合を占めるといわれる糖代謝に注目していきたいと思います。
糖代謝に関する最大のリスクと言えば、糖尿病です。
糖尿病が非常に怖いのは、単なる血糖値の上昇という事だけではなく全身の慢性炎症を引き起こすことで、重篤な疾病につながる可能性が高くなってしまうことにあります。
また、新型コロナウィルス感染症を罹患した場合のリスクについても、糖尿病などの糖代謝異常のケースは、「基礎疾患がある」と考えられ、重症化のリスクが高いともされています。
スウェーデン・ウプサラ大学准教授であり神経科学者のクリスティアン・ベネディクト氏は、睡眠不足とインスリン感受性の低下との関係性について、次のような実験を行っています。
この実験は、ドイツの研究者との共同研究によるものとされていますが、16名の健康体の若い男性を対象に、3回の睡眠の状況の差によって砂糖水による血糖値の上昇の状況と正常値に戻る時間を調べたものです。
この3回というのは、8時間何の妨害も無く熟睡してもらう場合、そして、被験者が深い眠りに入った状態を測定器が示すたびに、睡眠を邪魔するための音を鳴らす場合、最後にレム睡眠に入ったタイミングで音を鳴らすという3つのパターンで行われました。
その結果、深い睡眠が妨げられたパターンでは血糖値の上昇と共に、インスリンの値も他のパターンと比べて急激に上昇したという結果が報告されました。
このことは、睡眠というのは、時間だけでなく深い睡眠が十分にとれているか・・・という「睡眠の質」の重要性を指摘していることにもつながると考えられます。
また、深い眠りを妨げてしまうような症状の病気も、うつ病も含めて数多くあります。そして、その病気の処方薬として知られるベンゾジアゼピン系の入眠剤なども深い眠りに対して悪影響を与える可能性が指摘されています。
ベネディクト氏の報告では、連続する2日間において部分的に睡眠が妨げられるだけで、インスリンの反応に20%の低下がみられるというものもあります。
このような、睡眠不足による糖代謝への影響は、脳の働きに大きく影響受けているとも考えられています。
睡眠不足になりますと、覚醒時間が通常よりも長くなるために脳は通常よりも多くのエネルギーとしてのブドウ糖を必要とするようになります。特に深い睡眠が不足することによって、このエネルギー需要が強化されてしまうのです。
これは、重要な記憶を定着させ、不要な記憶を削除するために必要な、深い睡眠時に、充分なエネルギーの確保ができない可能性を脳が感じ取り、身体の中のブドウ糖の量を増やそうとするというようなメカニズムが働いてしまうとされています。
また、疲労を抱えた脳がブドウ糖を確保するためにコルチゾールの分泌を促すことで、筋肉によるブドウ糖の消費を抑えようとすることもあるそうです。
見えにくい睡眠不足の一つである「睡眠の質」の低下にも、糖代謝も含めた健康への影響が少なからずあるという意識は必要なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 11:18│Comments(0)
│身体のしくみ