2021年10月08日
睡眠不足とエネルギー代謝との関係を考える

睡眠不足と体形の話は、時々話題になりますので関心のある方も多いかと思いますが、食欲やエネルギー代謝と睡眠は、体内時計と併せて複雑な関係性があることが、多くの研究などから様々な事がわかってきました。
例えば、食べたものがエネルギーに変換される効率も体内時計の影響により時間帯によって異なることや、睡眠不足によって食欲が増進されるだけでなく、糖質や脂質を積極的に摂るようになるなど食事の嗜好にも変化が及ぶことも解ってきています。
例えば、食欲に関係するホルモンに、グレリンとレプチンがあります。この二つの関係はグレリンが食欲のアクセルの働きをし、レプチンがブレーキの役割をするようになっています。
睡眠中は食欲のブレーキであるレプチンが大量に分泌され、夜中に空腹で目が覚めないようにコントロールしています。そして、朝になると分泌量が減少し1日に必要なエネルギーを要求するという仕組みになっています。
しかし、睡眠不足の状態になると血液中のレプチンの量が、朝だけではなく1日中低下してしまい食欲を抑制するためのブレーキが壊れてしまったと同じ状態になってしまうのだそうです。
またアクセルであるグレリンの分泌も睡眠不足によって多く分泌されるという事も解ってきていますので、食欲に関しては、アクセル多めでブレーキが効かない・・・という暴走状態になってしまうのです。
睡眠不足と食欲との関係は健康の維持増進のためにも多くの関心が寄せられてきており、様々な実験結果もあるそうです。
イギリスで行われた実験では、就寝前のカフェイン摂取の制限などの睡眠時間向上のための生活習慣の見直しによって睡眠時間が長くなっただけでなく、砂糖の摂取量が1日当たり10g減少したという報告があります。
また、スウェーデンとドイツの研究者による共同実験では、十分に睡眠がとれた時と徹夜したときの食べ物の購入の傾向において、徹夜した後の方が脂肪分が多く、甘くカロリーの高い商品を購入する傾向が見られたという結果もあります。
ある意味、睡眠不足は身体の状態を考えれば危機的状況と脳が判断するのは当たり前です。そのような状況においては、飢餓に備えて積極的に高カロリーの食品を摂取したり、なるべくエネルギー代謝を少なくするように、ギアの切り替え・・・をすることはある意味理にかなっています。
しかしながら、このメカニズムはいつでもどこでもある程度の食事が手に入るという、現代社会に於いて、健康の維持増進に対しては、デメリットばかりが作用してしまうことも事実です。
人間の身体はそもそも、古来からの経験も踏まえてエネルギーを消費するよりも、蓄える性質があることは良く知られています。
スウェーデン・ウプサラ大学准教授であり神経科学者のクリスティアン・ベネディクトらの著書SLEEP SLEEP SLEEPによりますと、1日の体温の変動に併せてエネルギー代謝も変動するというのです。
エネルギー代謝は、何もしなくても生命維持にとって必要な基礎代謝と運動によるエネルギー代謝、さらには食事誘発性熱産生と様々な性質に分かれますが、食事誘発性熱産生については睡眠の影響を大きく受け、一晩の睡眠不足で翌朝の熱産生量が20%も減少するとも言われています。
この睡眠不足のボーダーラインは7時間と言われており、1日の睡眠時間が7時間未満の人は7~8時間の人に比べて、肥満になるリスクが50%も上昇するとされているのです。
ほんのわずかな違い、・・・なのかもしれませんが、肥満は体重が多いというだけでなく全身の慢性炎症になり、ある意味基礎疾患と考えられるケースもあります。
睡眠時間という物差しで、日常生活での習慣を見直すことは今後の健康管理の中で最も重要かつ有効な取り組みの一つかもしれません。