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2022年02月04日

免疫システムと腸内の短鎖脂肪酸

免疫システムと腸内の短鎖脂肪酸


 お腹の中に沢山の腸内細菌が共生していて、それらの微生物が様々な代謝物を産生してることは、近年多くの人にも知られるようになってきました。その代謝物が健康の維持増進に対して大きな影響を与えていることについても注目をされるようになってきました。

 その中でも、健康にプラスの影響を与える代謝物として特に注目を集めている物質が、短鎖脂肪酸と言われる有機酸の一種です。

 具体的には、酢酸、プロビオン酸そして酪酸になりますが、宿主の栄養素の一つとして重要な働きをしていることが解ってきています。

 そして、最近の研究ではこの短鎖脂肪酸が免疫システムにも大きな影響を与えている可能性も解ってきたというのです。

 例えば、多剤耐性菌のAcinetobacter baumannii(アシネトバクター バウマニ)は日和見菌感染起因菌として世界的にも問題になっている細菌です。
 この菌に感染させたマウスにビフィズス菌にオリゴ糖を併せたシンバイオティクス投与を行うことで、ビフィズス菌の感染防御作用が増強され、腸内の酢酸濃度とA.baumannii菌の菌数についての高いマイナスの相関がみられたことに加え、ビフィズス菌と酢酸濃度との正の相関関係があったという報告があります。

 さらに、腸管内の酢酸が大腸菌などに対するIgAと言われる抗体の産生を促進することや、腸管上皮細胞のバリア機能を高めることで、腸管感染防御作用に関わっているとことも解ってきたようです。

 これまでは、腸管内の酢酸などに関する考え方は、食品で云うところの「酢の物」や「梅干し」・・・などのように、単純に腐敗菌を酸で殺菌及び抑制するというメカニズムと考えられてきましたが、どうやら免疫システムに関わる様々なメカニズムにも働きかけることで外敵からの防御作用に寄与していると考えた方が良いということになりつつあります。

 また、酪酸についても、過剰な炎症やアレルギー反応を抑えるための免疫制御において重要な働きをする制御型T細胞の分化を、腸管粘膜を通じて促進することが報告されています。

 さらに、酢酸と酪酸との関係においても腸内細菌同士で複雑な役割分担のような関係性があることも解ってきたようです。

 ご存知のように、ビフィズス菌は酪酸を産生しないとされていますが、ビフィズス菌の産生する乳酸と酢酸を利用して腸内最優勢と言われるBlautia coccoides(ブラウティア コッコイデス)群に属する酪酸産生菌が酪酸を作ったり、小腸下部の常在菌として知られるStreptococcus(ストレプトコッカス)属の細菌が炭水化物を代謝して産生した乳酸をVeillonella(ヴェイオネラ)属の細菌が利用しプロビオン酸を産生しているとも言われています。
 このVeillonella属の細菌は、運動によって産生された乳酸を利用することで、宿主の運動能力にも関係してるのでは・・・ということが、ボストンマラソンの参加選手の腸内菌叢の調査でも報告されています。

 外敵から身を守る免疫システムは、不要な外敵への対応は勿論のこと、炎症やアレルギー反応などの過剰な反応につながらない調整機能が大切です。古くからプロバイオティクスと免疫システムとの関係については、健康の維持向上・・・そして、日頃のQOLの向上の観点から、様々な研究がなされています。

 また、プロバイオティクスとして利用する細菌が「生菌」か「死菌」か・・・という議論も関心事の一つです。従来は、免疫システムへのプロバイオティクスの働きかけは、不活化状態である「死菌」であっても機能するとされていましたが、新たな知見として、「生菌」だからこその代謝物である短鎖脂肪酸などが、免疫システムの機能に関わってきているとすれば、プロバイオティクスやプレバイオティクスへの考え方も変わってくるのかもしれません。





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