2020年10月24日
短鎖脂肪酸と腸内環境

短鎖脂肪酸と言えば、腸内細菌によってお腹の中の様々なエネルギーとして近年注目されつつある物質の一つです。
特に、食物繊維やオリゴ糖などのプレバイオティクスが注目される中、良い菌を摂り入れるプロバイオティクスの発想から、お腹の中の7割を占めるといわれている日和見菌を味方につけるためのプレバイオティクスを中心に、プロバイオティクス+プレバイオティクスというシンバイオティクスの考え方に進化しつつあります。
かつては、「大腸」は水と電解質を吸収するだけの器官と考えられてきましたが、腸内細菌によって代謝される短鎖脂肪酸の産生と吸収を通じて、エネルギー代謝や他の器官の機能に深くかかわっていることが解ってきました。
石巻専修大学理工学部基礎理科学科の坂田隆氏らのグループの研究によりますと、特に、腸神経系や腸内分泌系のような局所的な刺激伝達機構だけでなく、自律神経系や内分泌系のような全身の伝達系にもかかわるような複雑なシステムになっていると考えられているようです。
腸内細菌によって産生される短鎖脂肪酸の代表選手としては酢酸、プロビオン酸、酪酸があります。同じように腸内細菌によって産生される酸に、乳酸やコハク酸がありますが、分子構造の違いなどから他の作用をすると考えられています。
乳酸菌の主な代謝物として知られる乳酸を例に挙げると、大腸内のpH(水素イオン濃度)の変動要因については短鎖脂肪酸ではなく、乳酸やコハク酸によるものという事が判っています。つまり、腸内腐敗の予防などにもつながる大腸内の弱酸性化については乳酸菌などから産生される乳酸やコハク酸によって大きな影響を受けるという事になります。
すでにご存じの方もおられるかもしれませんが、大腸内のpHについては、胆汁に含まれるビリルビンが大腸内のpHによって色の変化が起こるため、便の色の状況で日常生活の中でも確認することが出来ます。
その一方で、蠕動運動にかかわるところでは、大腸の蠕動運動が活発になることに関して短鎖脂肪酸による影響というものが大きく、内容物の通過速度も向上するというような結果もあります。しかも、短鎖脂肪酸の中でも作用の強さが異なり、酢酸、プロビオン酸、酪酸の順番で強く作用があらわれるのだそうです。
さらに、排便という事になりますと、直腸から肛門の方に押し出すために収縮が起きるのですが、この収縮については酢酸が作用せず、酪酸とコハク酸の作用によるものだとされているのです。
このようなことからしても、酢酸を代謝する代表的な善玉菌であるビフィズス菌が蠕動運動促進による便性の改善への大きな関わりはわかるものの、そんなに単純ではなく、腸内細菌の多様性が必要であることも理解できます。
また、大腸全体で見てみた場合に盲腸やその周りでは、蠕動運動によって完全なくびれによる押し出し作用のような動きがみられない事があります。
その結果、常に内容物が入ってる状態を意識して保っているとも考えられており、この内容物を中心に複雑な微生物叢のリザーブタンクのような役割をしているとも言われています。このリザーブタンクの内容積を確保するために腸管に対して弛緩作用を行っているのも短鎖脂肪酸なのです。
このように、大腸だけで考えても腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸濃度をはじめとする様々な物質が複雑に作用しながら全体のバランスを保っていることが解りますし、腸内細菌との関係は切っても切れない共生関係であることを改めて考えさせられます。
Posted by toyohiko at 11:06│Comments(0)
│身体のしくみ