2022年05月19日
旨味と食欲と健康長寿を考える

前回、タンパク質不足の食事になる事で、炭水化物を過剰に摂ってしまい、結果的に肥満のリスクにつながってしまうという「タンパク質レバレッジ仮説」について紹介しましたが、高タンパク質・低炭水化物中心の食事を摂っていれば、すべて解決という事にはならないという事も一方で解ってきているそうです。
この仕組みは、多くの生物に備わっている基本的なメカニズムの一つと考えられていますが、長生きと繁殖のための生殖機能は両立せず、お互いに阻害しあう関係にあるためだと考えられています。
食料と栄養が十分であれば、そのエネルギーは繁殖と成長に注がれる一方で、長生きにつながる、新しい細胞を作る際に発生する、損傷などのミスコピーを修復したり、エラーの頻度が高まってしまうというのです。
つまり、癌化などの様々な疾病リスクが高まってしまうのです。これは、生命の進化に大きく関わる「死」のメカニズムにも通じる大切な仕組みでもあり、染色体にあるテロメアの長さにも影響を与えるというのです。
その一方で、低タンパク質の状態になることによって、繁殖機能が低下し、「長生き」というスイッチを入れ、「繁殖という進化上の目的を果たすため、来るべく状態に体調を戻す。」ための機能を優先させるのですが、基本的にヒトを含めた多くの生物は、「長寿よりも、進化のために遺伝子を引き継ぐことを選択する。」というのです。
長寿という視点から考えると、「肥満は必ずしも健康に悪いとは言えない・・・」という考え方もできるのですが、炭水化物の摂取の仕方に工夫をすることで、両立とはいかないものの丁度いいバランスを見つけることが出来るというのです。
ご存知の方も多いかと思いますが、炭水化物の過剰摂取と言いましても、炭水化物は大きく分けて食物繊維と糖質の二つに分類されます。
つまり、食物繊維を意識して摂取することで摂取カロリーの中身を変化させることが出来るという事です。
このような食生活をしている代表的な地域が、沖縄と言われていました。
サツマイモと葉物野菜を主体とし、少量の魚と赤身肉を組み合わせた伝統的な沖縄食を中心に食べていた頃では、100歳以上の人口割合が他の先進国平均の5倍と言われており、三大栄養素の摂取比率は、タンパク質がわずか9%、炭水化物が85%、そして脂肪も非常に少なく6%であったと言います。
これは、食事に十分な食物繊維が含まれることで、カロリーの過剰摂取につながる「タンパク質レバレッジ効果」が弱められるためともされています。
事実、食物繊維は食物の消化速度を遅らせ、空腹感を抑えたり、腸内細菌のエサになる事で直接吸収されるのではなく、短鎖脂肪酸などの多くの有効成分に変換された状態で体内に取り込まれるなど、複合的な効果があることも知られています。
とはいえ、「タンパク質レバレッジ仮説」が有効であり、タンパク質の摂取を中心に食欲や食の嗜好がコントロールされているとしたならば、旨味と食物繊維が豊富な「出汁を中心に旨味を大切にしている日常的な日本食」が一番良い・・・、ということになるのではないのでしょうか。
旨味成分の多くはアミノ酸と言われるタンパク質をつくる材料になるモノです。つまり、「旨味は食品にたんぱく質を含んでいるシグナル」という事になります。
かつて、旨味は日本人独特の味覚とまで言われていましたが、「寿司を箸で食べる・・・」という食文化は世界中に広がり、そもそも日本の料理である・・・という事すら知らない人たちが出てきたという状況になっているという話を耳にしたことがあります。
こうして考えると、旨味と食欲との関係からすれば「世界遺産としての日本食」も、文化という側面だけではなく、健康長寿・・・、そして健腸長寿の一助として大きな役割を果たしているような気がします。