2023年01月14日
プロバイオティクスの選び方を考える

「腸活」とか「育菌」というような言葉を、多くのメディアで耳にするようになり、お腹の健康が身体全体に及ぼす影響について、多くの注目が集まりつつあります。
このような流れの中、お腹の健康のために何をすれば良いのか・・・という事に対する関心を持つ方も多いかと思いますが、「健康」という言葉に共通して言えることは、「食事」、「睡眠」、「適度な運動」そして、「快適な排泄」です。
その中でも、「食事」は、身体をつくり出す元・・・としても重要な役割の一つになります。
お腹の健康という視点からすれば、第一には、もともと皆様方のお腹にいる善玉菌と呼ばれるような良い働きをする常在菌を元気にするためのアプローチが、常在菌のエサとなるプレバイオティクスの活用です。
プレバイオティクスというとわかり難いかもしれませんが、善玉菌が活性及び増殖するための「大好きなエサ」と考えていただければいいかと思います。
具体的には、食物繊維に分類されるような腸まで消化されずに到達する炭水化物などになります。よく耳にするオリゴ糖もこの仲間に入ります。
炭水化物ダイエットなどの影響で、おなかの調子が優れなくなってしまったり、便秘など排泄に不具合が出てしまうケースは、常在菌のエサが足りなくなってしまうことで、善玉菌の元気がない・・・可能性を考える必要があります。
二番目は、プロバイオティクスと呼ばれる、良い菌の仲間を積極的に取り入れることで、お腹の中に元々いる善玉菌を応援したり、新たな菌の作用などの相乗効果で腸内腐敗を防いだり、消化器官の蠕動運動を活性したりする方法です。
三番目は、プレバイオティクスとプロバイオティクスの両方を積極的に摂取することで、相乗効果が期待できるシンバイオティクスと言われる方法です。
ここで、多くの方々にとって興味があるのが、「プロバイオティクスとは言うけれど、どれが良いの・・・?」という事かと思います。
当然のことながら、プロバイオティクスも微生物と言われる生物になりますので、生物学的な分類によって整理されています。
一般的に流通している食品に使用されているプロバイオティクスの名前は、大きく分けて菌種と菌株の二つの分類の段階があります。
例えば、通称、乳酸菌シロタ株と言われている乳酸菌は、Lactobacillus casei Shirota(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ)株(YIT9029)という正式名称がついています。
生物の分類学的には、ラクトバチルスと言われる乳酸桿菌属のラクトバチルス・カゼイという菌種に分類されます。
この菌種は、ヒトで言えばホモサピエンスにあたるとされており「人類」・・・というようなイメージです。
さらに、最後のシロタ株というのが、菌株という分類で微生物の分類の世界では、「菌種」がヒト全体を表わし、「菌株」が個人というレベルになるとされています。
こうしてみると、微生物の世界には人種という概念がないのか・・・と思うかもしれませんが、遺伝子学的に見れば、人種という概念は曖昧であり人類から個人に一足飛びになるという事もある意味理解できるような気がします。
分類学的な視点で言えば、菌種とは細菌の種類を表わすもので、細菌からDNAを抽出して調べることで、菌種を同定しています、 一方、菌株とは、個々の由来(分離源)などを識別したもので、菌種より細かい識別となっているのが現在の状況のようです。
この、菌種か・・・?菌株か・・・?という話については、現在の科学において、プロバイオティクスとして人間に与える影響について様々な議論があるようで、2022年にバルセロナで行われた国際プロバイオティクス-プレバイオティクス学術機関(ISAPP)の総会でも「プロバイオティクスの有効性は、菌種特異的であるべきか、あるいは菌株特異的であるか・・・」というディベートが行われたほどなようです。
その議論の中で、ワルシャワ医科大学小児科のHania Szajewska博士は、臨床医の立場から抗生物質関連下痢症や過敏性腸症候群、急性下痢症などのプロバイオティクスを利用した臨床研究結果において、「限られたプロバイオティクス菌株についてのみ、各疾患の軽減作用が認められた・・・」という結果をふまえ、「有効性の認められているプロバイオティクス菌株」の重要性を訴えていました。
また、ベルギーのアントワープ大学応用微生物・バイオテクノロジー研究室のSalah Lebeer博士は、菌種という単位でも特異的な機能があることも現実としてあることから、菌種特異的機能という事例の紹介や、同じ菌種のなかで複数の特異的機能を持つグループが存在するなど、様々な議論がなされたようです。
このように、最先端の研究者同士においても、プロバイオティクスを始めとする微生物の特性についての議論が進行中である・・・という事を理解した上で、「乳酸菌といっても・・・」「ビフィズス菌といっても・・・」様々な、異なる性格をもった微生物が目的によって選択されているということを、改めて認識する必要があるのかもしれません。