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2024年06月07日

疲労と疲労感の違いを考える

疲労と疲労感の違いを考える


 近年、働き方改革や健康経営という意識が社会に浸透し始めましたが、そこで大きなキーワードになるのが、「疲労」です。

 そもそも、「疲労」というものは、「痛み」や「発熱」に並ぶ、人体の三大生体アラームの一つと位置付けられています。しかしながら、痛みや発熱と異なるのが、三つのアラームとも身体の異常を知らせるためのものであるのにも関わらず、「痛み」や「発熱」と違って認識しにくい場合があるということです。

 疲労に関する研究者によれば、疲労は、「肉体的、精神的、感情的な活動やストレスなどによって引き起こされるエネルギーや活力の低下、全体的な無力感などの一時的な状態」という捉え方ではなく、「身体の細胞がダメージを受けた状態」という理解をする必要があり、ストレスも含めた肉体的な負荷に対しては、本人の認識が無くても細胞レベルではタンパク質や遺伝子に傷がついていくという変化が常に起きているという認識が必要だとしています。

 更に、金沢医科大学細胞医学研究分野 岩脇隆夫教授によれば、脳と腸は疲労の影響を受けやすい臓器なので、特に気を付ける必要があるとも指摘しています。

 東京慈恵会医科大学ウィルス学講座近藤一博教授によれば、「疲労」のメカニズムは、継続した運動や身体に負荷が掛かることで、細胞のタンパク質の合成にブレーキがかかり、その結果、細胞が死滅してしまい、炎症性サイトカインという物質が放出されます。

 その炎症性サイトカインが血液中に入ることで疲労を感じ、休息や睡眠などによって炎症性サイトカインが消失すると再びタンパク質の合成が出来るようになるというサイクルが常に身体の中で起きていると言われてます。

 つまり、「疲労」の状態では、細胞の破壊と炎症性サイトカインの増加という状況が身体のあちらこちらで起きており、そのサインが「疲労感」という脳が認知するシグナルになるのです。

 すなわち、「疲労感」は、休息や睡眠を促すための脳が感じる休めというサインなのです。

 更に、「疲れが溜まると・・・○○が痛い」というような、自覚できる疲労のシグナルの場合は、アポトーシスと言われる細胞の自己破壊の状況にまで陥っていると考える必要があるともされています。

 また、細胞中のたんぱく質の合成が阻害される要因の一つに、細胞中に存在するelF2αというものがあるのですが、そのelF2αにリン酸がくっ付くことでリン酸化してしまうということがあります。そのくっ付いたリン酸を外すことで疲労が回復するというメカニズムになっていることが最近の研究で解ってきました。

 さらに、elF2αからリン酸を外す働きをする酵素が、軽い運動によって誘発されるため、疲労回復には軽い運動が有効と考えられていると同時に、運動による疲労はリン酸を外す酵素が多く誘導されるために回復しやすいのに対して、身体を動かすことなく、精神的疲れが続く場合には疲労回復のメカニズム的にも長引き易いという理解が必要です。

 しかしながら、人間の場合は疲労のシグナルである「疲労感」を感じにくくしてしまうことがあるというのです。

 例えば、あることに取り組んでいる時に、その事が上手くいったときと、上手くいかなかった時では、疲れ方が違うということを感じたことは無いでしょうか。

 本来、「疲労」は認識しにくい生体アラームとされています。ヒトの脳は疲労を正確に捉えることが出来ない故に、「疲労」と「疲労感」にズレが生じるというのです。

 先ほどの、事例のように、上手くいこうが、上手くいかなかろうが身体に対する負荷は大きな違いがないことが殆どです。しかしながら、体感として感じる疲労、すなわち疲労感は大きく異なることが多いのです。

 これを疲労のマスキングと呼ぶそうです。疲労のマスキングが起きやすいケースには、仕事に充実感や達成感があったり、周囲の人に褒められるというような場合には、疲労感が無くなると一般的に言われています。

 「人間は、唯一疲労感を自分で消すことが出来る種」と言われており、脳が発達しているゆえに、前頭葉が大きくなったことで、欲望や進化に対する欲求に左右され疲労感を感じにくくするのだそうです。
 
 つまり、「もっと良い生活・・・」「もっと良いモノが欲しい・・・」という欲求によって進化を遂げてきた結果、脳内でドーパミンなどの神経伝達物質を放出することによる快感や高揚感によって疲労感を消すという術を身に付けてしまったのです。

 あらゆる種の中で、このような快感や高揚感によって疲労を感じにくくするという種はヒトだけだと言われています、また、ヒトの世界でも、疲労を溜めないのが世界標準であり、「過労死というのはヒト独特の現象」でもあり、「日本独特の状況」とも言われています。

 「疲労感なき疲労」というのものが存在することを知っておく必要があるのです。実際には、「疲労感」は無くても「疲労」は、自律神経の状態に顕在化していることが多いそうです。

 基本的には、疲労は身体全体を休ませることでしか疲労は取れないとされていますので、睡眠でリカバリーするしかありません。

 もし、「朝起きた時のリフレッシュ感が」なかったとしたら、睡眠の質にも着目しながら、「全然、大丈夫です・・・!」に象徴されるような、無理を承知で・・・というライフスタイルを見直してはいかがでしょうか。






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Posted by toyohiko at 09:31│Comments(0)身体のしくみ
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