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2017年02月03日

乳酸菌研究のいま・・・(Ⅴ)

乳酸菌研究のいま・・・(Ⅴ)



 昨年、ヤクルト本社と総合科学雑誌「Nature」との共同企画で世界中の微生物や免疫などの研究に取り組んでいる研究者の方々を招待し、「健康と疾患における腸内細菌叢の役割」をテーマに「ネイチャーカフェ」を共同開催しました。その様子が、Nature asia.comでイベントとして公開されましたので、その時の内容についてご紹介していきたいと思います。

 特にその時に行われた、パネルディスカッションでは、「微生物叢研究の未来」ついてNature MicrobiologyのチーフエディターAndrew Jermyを司会として、健全な微生物叢の概念の定義など、新たな課題も提起されました。

 パネラーからは、腸内フローラがヒトの健康や様々な疾患の傾向について、「ほぼすべての側面に影響を及ぼす可能性がある」という前提に対して、基本的な合意をしたうえで、それを引き起こす因果関係のメカニズムについて明らかにすることが、今後、様々な疾病に関する治療との関わりに広がっていくことにつながるという考え方で議論がなされました。

 特に基調講演も行った慶應大学医学部の本田賢也教授は、「腸内細菌叢(腸内フローラ)の多様性を回復することが重要・・・」としたうえで、その人に合った20~30種程度の菌株をブレンドした「細菌カクテル」の様なものが有効になる可能性がありますし、それは今後2,3年以内に実現するかもしれませんというようなお話もあり、このことは、消化器系の感染症の罹患率のみに関わらず、精神疾患と呼ばれるような認知や行動に極度な特性が見られるかたの、腸内フローラを構成する菌株の種類が少ないという傾向が、色々なケースにおいて共通してみられることからもこのようなものが期待されている部分もあります。

 さらに、パネリストから出てきた意見で皆さんが一様に同意したものとして、「腸内細菌が消化管以外の臓器に影響を与えるであろうという・・・」ということです。

 デイリー・アンド・フードカルチャー・テクノロジー社(米国)のコンサルタントMary Ellen Sanders氏は、脳腸相関のように脳と腸の相互作用についての研究が今後一層盛んになると述べるとともに、多くの企業や研究機関で、腸内フローラが神経、免疫、内分泌機能に関する影響について特に盛んになっていくだろうとしています。
 その中で、「「うつ病や不安障害などの疾患に新しい治療法が見つかるかもしれません。」とも述べています。

 さらに、腸から見つけ出される新たな治療薬についても言及され、ユニバーシティ・カレッジ・コーク微生物学部(アイルランド)教授で、微生物食品安全性を研究するColin Hill氏によれば、「微生物叢由来の抗感染症薬が最初に応用されるのは[牛や豚、鶏の]飼料用と考えるのが妥当だろう」として、人の健康の領域だけではなく、あらゆる分野への応用の可能性についても語られました。

 ワイツマン科学研究所の主任研究員Eran Elinav氏によれば、「この分野は本当に統合的な領域です・・・。」というコメントとともに、あらゆる分野からのアプローチの必要性と共同研究という具体的なアプローチの提案をしつつ、「微生物叢にまさる領域はない」とも断言していました。

 腸内フローラの未来に向かっての可能性・・・

今後の研究の体制整備や私たちにもたらされる喜ばしい成果に期待できそうです。



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Posted by toyohiko at 13:02│Comments(0)身体のしくみ
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