2017年10月28日
乳酸菌研究のいま・・・(Ⅵ)小児シンバイオティクス療法最前線

先日、ヤクルト・バイオサイエンス研究財団主催文部科学省後援の第26回腸内フローラシンポジウムが行われ、「食・栄養・くすりがどのように関わるのか?」というテーマで、国内外の腸内フローラ研究の第一人者が集まり様々な議論がなされました。
その中での二つの特別講演として行われました内容を、今回と次回との二回に分けてご紹介したいと思います。
最初の特別講演は、国立成育医療研究センター臓器・運動器病態外科部外科医長の金森豊氏による小児外科の現場における「シンバイオティクス療法」の臨床結果について最新の知見の報告がありました。
シンバイオティクスという概念は1995年からできた新しい概念ですが、宿主にとって良い菌であるプロバイオティクスとその良い菌の食餌となるオリゴ糖や食物繊維などを同時に経口摂取することで、腸内フローラの改善と健康効果の増進を図るという考え方です。
金森氏は、東京大学小児外科に所属していた1997年より、このシンバイオティクスの概念をつかって、乳幼児における消化管異常や呼吸器異常などの先天性外科疾患と呼ばれる症状に対しての臨床研究を行っています。
生まれながらに、腸管が短かったり、腸管の癒着、更には腸管が腹膜の外側に出てしまっているような、先天性消化管異常というケースが、ごく少数でありますが存在します。
そのような、ケースのほとんどが出産後早期に外科的治療が必要で、更に術後の数年にわたる長期治療というのが一般的でした。
術後の治療が長期化する原因としては、手術による身体への負担を始め、抗生物質投与、口から物をうまく食べられないことによる経口摂取制限、免疫低下状態など身体にとっての様々な悪条件が重なり、患者である子どもの腸内フローラは正常なものとは程遠い状態になっていることが以前から指摘されていました。
特に、抗生物質耐性菌の異常増殖に於いては命の危険につながる可能性も指摘されており、MRSAなどの感染症も多かったと言われています。
その結果、患者である子どもは、腸管機能不全による低栄養と重篤な感染症に常に悩まされてたのです。
その患者の腸内フローラを改善することで、重篤化の低減やて低栄養状態からの早期脱却を目的にこのシンバイオティクス療法を行いました。乳児期に於いては、栄養吸収唯一の器官でる小腸及び大腸の機能不全が体重低下を引き起こすために、消化器機能の改善は非常に大切な要素と考えられています。
実際に、健常児の場合、栄養素の80~85%は小腸で吸収し残りの15~20%が大腸で吸収されると言われてますが、消化管機能不全の患者の場合は、小腸で全体の40%を吸収してはいますが、大腸ではほとんど栄養吸収の機能はしておらず、全体の4割程度しか栄養の吸収機能が出来ていないというデータもあるようです。
そのような状態を改善するために、ラクトバチルスカゼイ・シロタ株とビフィドバクテリウムブレーべ・ヤクルト株という二種類のプロバイオティクスとガラクトオリゴ糖をプレバイオティクスとして投与する方法として行いました。
その結果、次第に投与した菌株が優勢になり、最終的にはその患者自身のものと思われる常在嫌気性菌が優勢になり安定しすることで、経口の栄養補給が可能になり、通常の乳児と同じような体重増加の傾向が見られ早期の健康改善につながったという報告がありました。
更に、金森氏は術後の治療的シンバイオティクス療法に対して、術前にからシンバイオティクスを投与しある程度腸内フローラの改善を行ってからの治療するという予防的シンバイオティクス療法を2004年から導入しています。シンバイオティクスの術前投与に関しては、成人に於いても術後感染症の発症率の軽減や入院期間の短縮などの成果が報告されていますが、腸内フローラの形成期である3歳までの場合は大きな意味を持つ可能性があります。
報告では、予防的シンバイオティクス慮法によって、入院期間の短縮が図られ数ヶ月で退院した事例もあったようです。
今回特徴的だったのは、腸内フローラの改善について微生物学的分類に於いてより標準的な多様性のある腸内環境に近いような結果が出たということです。
次回は、アメリカにおける肥満と抗生物質に関する研究についてご報告させていただきたいと思います。
Posted by toyohiko at 13:36│Comments(0)
│身体のしくみ