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2020年07月10日

重症感染症とシンバイオティクス

重症感染症とシンバイオティクス


 重症といわれる症状において、約60%以上の割合で消化器系の合併症がみられるという事が言われています。

 消化器系の症状は、「お腹が痛い・・・」という事だけでなく、大けがや全身の熱傷、重症感染さらには、手術などの身体に対する過大な侵襲といわれるような負担によって腸内細菌、腸管上皮のバリア機能、粘膜免疫バランスなどが崩壊することで、多臓器不全の進行や感染症の合併にも関連していると考えられており、腸管不全と様々な合併症からくる重症化の原因として世界的にも注目されているようです。

 しかしながら、集中治療分野のガイドラインに相当するようなものについても、重症患者への適切な腸管内治療に関する記述は見られない状況にあるという現実もあるようです。

 そのような中、大阪大学医学部附属病院中央クオリティマネジメント部の清水健太郎氏らが、SIRS(全身性炎症反応)や多臓器不全に至るような重症感染症における腸内フローラの変化とプロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を利用したシンバイオティクスの手法の有効性についての研究がありますのでご紹介させていただきます。

 この研究では、SIRS患者の腸内フローラ及び腸内環境の変化を定量的に評価し、SIRSの症状についての関連を検討したものです。
 SIRSは、病気という概念ではなく、外傷、熱傷、膵炎、重症感染症などの様々な急性期疾患によって引き起こされる状態を指し、体温、脈拍、呼吸数、白血球数の4項目中2項目の異常をみたすものと定義されており、この状態が酷く、長引くことによって炎症性細胞が活性化し循環障害や多臓器不全に至るとも言われています。

 この研究ではまず、、2日間以上ICU(集中治療室)に滞在したSIRS患者の便を採取し腸内細菌群の定量評価を行いました。

 その結果、SIRS患者の場合の偏性嫌気性菌の数が優位に減少しており、特にラクトバチルスやビフィドバクテリウムなどの善玉菌と呼ばれる菌のグループについては健常な人の100分の1から1000分の1という大きな減少の結果がみられたという事です。
また、偏性嫌気性菌の特徴としては他の細菌の増殖を抑える働きがあるため重症患者にとっては極めて重要な意味を持つと考えられています。

 そして、善玉菌や日和見菌の代謝物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロビオン酸、酪酸)も著しく減少しており、腸管内のPH(水素イオン濃度)が健常者の平均値6.6±0.3の弱酸性に対して、7.4±0.6とアルカリ性の状態になっていることが解りました。

 短鎖脂肪酸は腸管での分泌や吸収など重要かつ多様な働きを持っているといわれていますので、健康への大きなマイナス要因の一つと言えます。その中でも、酪酸の低下は重症病態で顕著であり、場合によっては、長期間の欠乏状態もあるという事が明らかになっています。

 このことからも、身体に対する様々な侵襲が腸内フローラの崩壊ともいえるような様々な変化が現れ、腸内環境の悪循環の形成に発展するリスクが示されたことになると思います。

 さらに、重症患者で崩壊した腸内フローラや腸内環境を改善することで感染合併症の減少への効果についての検討も行いました。

 SIRSの影響を調査したときと同様に2日間以上ICUに滞在した患者55名(感染性症状34人、外傷15人、熱傷6人)に対して、L.カゼイ・シロタ株(YIT9029)とビフィドバクテリウムブレーベ・ヤクルト株をプロバイオティクスとして、プレバイオティクスとしてガラクトオリゴ糖を経口摂取が出来るようになるまで経腸チューブにより投与する方法で二つのグループでの検討を行いました。

 この結果、シンバイオティクスを投与グループではビフィドバクテリウムやラクトバチルスなどの善玉菌の数が高く維持されると同時に、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸も保つことが明らかになりました。

 また、シンバイオティクスを投与したグループと投与しなかったグループでは、腸炎の発症率が投与7%に対して非投与46%、肺炎が投与20%に対して非投与52%、菌血症は投与10%に対して非投与33%といずれも明らかな違いがみられました。

 これは、シンバイオティクスという試みが重症患者の腸内フローラや腸内環境を維持することで、経過中の最大のリスクである感染合併症を減少させる可能性を示唆しています。

 腸炎だけでなく、肺炎やそのほかの感染症にたいしてのメカニズムは解明されてはいないものの、腸管免疫を介した全身の免疫システムへのプラスの影響が考えられるとしています。

 これらのことは、重症時はもちろんのこと健常時においても腸内フローラそして腸内環境の正常化の大切さが示されたと同時に、その維持向上のために最も有効な方法の一つがシンバイオティクスという考え方であることも示されたのだと思います。






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Posted by toyohiko at 13:52│Comments(0)身体のしくみ
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