2021年01月15日
腸は味が解るのか・・・?

「何を食べたいか・・・」を考えるのは実は腸なのでは・・・という話を前回させていただきましたが、食べ物の味を認知するのは、舌の味蕾だけでなく、腸も含めた上部消化器官にもある・・・という事はご存知でしょうか。
名古屋市立大学医学研究科脳神経生理学の飛田秀樹教授によりますと、腸にも味蕾のような、味覚のセンサーの機能を持つ受容体があり、これは胃や十二指腸にも存在することが解ってきたという事なのです。
更に、その作用が成長発達過程に於いての情動形成にプラスの影響をもたらすような生理作用が示されたというのです。
動物を含めた、多くの生き物は行動を起こすためのモチベーションや情動と言われる脳の働きが重要だと言われています。
情動には、感情のような「意識できる情動」と、蛇を見た時に、それをはっきり認識する前に反射的に逃げてしまう・・・というような、生まれつき備わっていると言われる「無意識の情動」があり、さらに恐怖の体験などからくる「生後に獲得される情動」があるとされています。
「無意識の情動」には、「蛇の苦手な人・・・」と「蜘蛛が苦手な人・・・」に区分けされるようで、「足の無い生き物」に対する反応と「足の多い生き物」に対する反応があるとも言われています。
「情動」と呼ばれるものは、意識的にコントロールできるものではなく、外部環境の変化による感覚情報が直接的に脳の偏桃体というところに入力されることで、無意識的に発生していると言われています。
不安な時に、「そわそわと動き回り仕事が手につかない・・・」とか、恐怖で「身が凍り付いた・・・」「咄嗟に逃げる・・・」という事などは情動行動の代表的な例になります。
このような身体の働きは、生まれた状態ではある程度は機能しているものの、その後発達過程において完成されていくものとされていますので、発育期は非常に重要な時期とされています。
前出の飛田秀樹教授は、発育期のラットを利用し、うま味成分であるグルタミン酸ナトリウムを5週間摂取させ、不安を誘発し行動を評価するオープンフィールド試験や、社会性行動における情動行動を観察するためのソーシャルインタラクション試験などの実験を通じ、評価検証を行いました。
その結果、発育期にうま味成分を投与することで攻撃性の減少がみられると同時に、脳の偏桃体を中心とした情動に関わる部分にもその変化を示す反応が現れたとの報告をしています。
このことは、うま味成分が胃や消化管上部の十二指腸などで受容され、胃迷走神経を通じてその刺激が脳へ伝わることで「温厚な性格」や「社会性の獲得」という方向性に導いた可能性を示唆してるとともに、「腸を中心とした消化器官が性格を決めている・・・」という事にもつながるのではとしています。
飛田教授は、直感という意味でよく使われるGut feeling という表現についても、「快食や快便によって、脳に送られる快い信号ということからきているのでは・・・」と脳と腸の密接な関係について述べています。
以前紹介した、ヤクルト中央研究所主席研究員の河合光久氏も、舌の味蕾が味の濃さを感じるように、腸管の様々な受容体も味のようなものを感じ取り、その濃度によって脳腸相関においてより大きな刺激となると説明しています。これは、摂取した食品の成分だけでなく、腸内細菌に対して直接的に作用するプロバイオティクスの濃度についてもいえるとしています。
近年、急増していると言われている過敏性腸症候群についても、「脳の偏桃体を刺激する脳腸相関病」とされており、その多くの症状が腹痛や下痢などの便通異常と言われています。
もし、腸にも味覚があり、その味覚が脳腸相関を通じて脳に対する様々な影響を及ぼしているのであれば、「何が食べたいかは、腸が決めている・・・」という話がますます現実的なものになってきただけではなく、「何を食べるのか・・・」が脳に大きな影響を及ぼしているという事を考える必要があるのかもしれません。