2021年07月09日
「伝言ゲーム」とストレス

精神的なストレスと呼ばれるものの多くは、自身の脳によって行われる予測や期待に対するネガティブな方向へのズレの大きさによってもたらされると考えられています。
様々な現象や他人からの意見などの外的刺激や「自分自身の考え」による内的刺激とのズレなどがそれに当たります。
皆さん「伝言ゲーム」をご存知かと思いますが、人を介しての情報の伝達が常に正確かつスピーディーであれば、ゲームとしての面白みは成立しません。人を介しての情報の伝達が不正確且つ個人の思考や知識によるバイアスがかかりやすいという特性があるからこそ、ゲームとしての面白みがあるのです。
このように、「伝言ゲームが何故成り立つのか・・・」を考えてみても、簡単に出来るであろうと思っている情報伝達も実は意外に難しく、そこに期待値とのズレが発生しストレスの原因になりうると考えないといけないのかもしれません。
青砥瑞人氏の著書「BRAIN DRIVEN」によりますと、そのズレに対しては、「自分自身が思っていた情報とのズレ・・・」という事になりますので、情報のズレを脳に定着させるための働きをするような仕組みがあります。その仕組みが、ドーパミンの放出による記憶定着の促進と考えられています。
しかし、そのズレが許容範囲を超えてしまうと、ズレに対応するための「反射的な行動」に繋がります。その行動を司るのが「闘争か逃走か」の選択をするための自律神経のひとつである交感神経です。ストレスを感じている人の心臓の鼓動が激しくなるなどの生体反応がこれにあたります。
さらに、ストレスが過剰になると思考をつかさどる前頭前皮質の機能が停止し、現実的ではない選択をしやすくなったり、何か間違っているものが無いかを確認することが出来なくなり思考停止の状態になってしまいます。
つまり、冷静な状態では現実的な選択の間違いの判定が出来る人も過剰なストレス下ではそれが出来なくなってしまい、いわゆる「頭が真っ白な状態」に陥りやすくなってしまうのです。
これを、部下への叱責が常態化してしまっている上司と部下との関係で考えてみますと、部下は叱責している上司に委縮してしまうことで、思考停止状態に陥ってしまいます。脳が思考できない状態である以上、その関係性の中ではいかに的確なアドバイスであったとしても何も学ぶことが出来ないのでまた同じミスを繰り返すという悪循環に陥ってしまいます。
その一方で、部下の脳では、「この上司は危険だ・・・」という学びを強化していることになりますので、同じような責の繰り返しは、思考停止へのスイッチの切り替え速度を速めること以外に効果がないと思った方が良いのかもしれません。このような関係は、パートナー同士の関係や、親子の関係であっても同じようなことが言えると思います。
「どうして、あんな言い方をしてしまったのだろうか・・・」「「なぜ、あんなことをしたのだろう・・・」という経験を誰もがしていると思いますが、これも過剰なストレスによる前頭前皮質の機能の停止によるもの・・・と考えた方が良いのかもしれません。。
このような、過剰なストレスを回避するために大切なことは、心理的に安全な状態を意識することといいます。
「伝言ゲーム」が何故ゲームとして成り立っているのか・・・を考え直してみれば、「言ったことが、なんでわからないんだ・・・」というような、「期待値とのズレ」との関わり方も少しずつ変化してくるのかもしれません。
また、自らの経験や知見を積み重ね俯瞰的な視点を身に着けることで、自分自身のズレの許容範囲を広げることも過剰なストレスからの回避にもつながります。
「聞き手の粗相は、云い手の粗相・・・」という言葉もあるように、コミュニケーションにおける言語の伝達の割合は7%であるという、非言語コミュニケーションの考え方からすれば、表情や態度、仕草が相手に対する過度なストレスであり、心理的安全性を損なってしまう大きな要素の一つと考える必要があります。
適切なストレスは、記憶を始め様々なパフォーマンスを上げることが解っています。その一方で、過度なストレスは、そのパフォーマンスを思考停止という形で急激に下げてしまいます。
お互いの期待値とのズレの許容範囲を広げながら、良い形で修正していく事が、ストレスと上手く付き合う方法の一つかもしれません。