2022年11月26日
トランス脂肪酸は気にしたほうが良いのか

前回、健康の維持増進のためには、腸内細菌の多様性だけでなく、食物繊維の多様性も意識した「シンバイオティクスな食事」の話をさせていただきました。
その中でも、脂肪と糖の過剰摂取は、食のファストフード化などのライフスタイルの変化に伴い、大きな課題にもなっています。
そのなかでも、「身体に良くない・・・」イメージの代表的な存在が、トランス脂肪酸です。
アメリカでは、2018年6月からFDAが「心臓発作との関連など健康への害がある」との理由で、トランス脂肪酸を食品添加することは原則禁止になっています。
日本では、表示の義務や添加の禁止というような具体的な措置はないものの、少しずつ状況の変化が起きている様です。
農林水産省による「食品中の脂質とトランス脂肪酸濃度」についての報告によると、トランス脂肪酸の含有量は平成18年から19年にかけての調査と平成26年から27年にかけての調査を比較してみると、随分様子が変化してきていることが解ります。
トランス脂肪酸が含まれる代表的な存在と言われてきた、マーガリンでは、1食分あたりの換算値で8.7gから0.99gへと約10年間で約9割近く減少しています。
その一方で、バターは1.9gから1.7gと当初からトランス脂肪酸の含有量は低かったものの現在では、マーガリンの方が少ない・・・というような逆転現象が起きているのが実情です。
その他、植物性油脂が、0.93gから0.91g、マヨネーズが0.2gから0.14g、ショートニングが1.2gから0.1gと減少幅の違いはありますが、多くの加工食品での含有量は減少しています。
この、理由としては、加工技術の変化によるものが大きいとされています。
そもそも、トランス脂肪酸には天然由来のものと、油脂を加工する際に生成されるものの二種類に分類されると言われています。
天然由来のものは、牛などの反すう動物の胃の中にいる微生物が、リノール酸などの不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に変換するのですが、その変換の過程の中で代謝物として出来ることが解っています。
もう一つは、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に変化させ固形化することを、「飽和化」と言いますが、その飽和化する際の水素添加によってトランス脂肪酸がつくられます。
また、油を高温で加熱する際にもトランス脂肪酸が微量につくられることがわかっています。
近年は、その飽和化の過程に於いて水素添加以外の油脂加工技術が活用できるようになったために加工食品のトランス脂肪酸含有量が少なくなったと言われています。
東北大学大学院薬学研究科の松沢厚教授によりますと、トランス脂肪酸は単体では無害だが、細胞がダメージを受けけたときに過剰な炎症を起こす“悪玉ブースター”だということが解明されてきたとしています。
さらに、「新型コロナウイルスの重症化につながる免疫の暴走、『サイトカインストーム』にもトランス脂肪酸が関与している可能性がある」とも述べています。
2003年にWHOが「心血管系疾患リスクを低減するための目標基準として、トランス脂肪酸摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう」提示しました。
日本人の1日当たりのカロリー摂取量から計算すると約2gという事になりますが、油脂分の多い食べ物の摂取量が少ない日本人の摂取量はその当時で既に、0.5%未満であったという報告もありましたが、近年の情報では、日本人一日当たりのトランス脂肪酸の平均摂取量は、総エネルギー摂取量の0.6%程度と上昇しており、最近の研究では、若年層や女性などに、摂取量が1%を超える集団があるとも報告されています。
さらに、2018年の米国でのトランス脂肪酸の食品添加の禁止の頃から日本国内でもトランス脂肪酸低減食品が続々と登場し、さらに含有量は減少していると考えられています。
その一方で、消費者庁の「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」によれば、食品100g当たりのトランス脂肪酸含有量が0.3g 未満の場合は「0g」と表示しても良いという状況を考えると、まだまだ、わかり難いところがあることも事実です。
食品は身体の元になる大切なものです。とはいっても、トランス脂肪酸の事例でもわかるように、「摂る・・・(悪)」「摂らない・・・(善)」というような過剰反応をすることで、かえってストレスという健康にとっての一番の大敵に見舞われることにつながりかねません。
それぞれの特徴を理解し、最新の情報に対するアップデートを常に意識し、自身の判断で取捨選択をしていきながらうまく利用していくことの大切さを考える必要があるのだと思います。
Posted by toyohiko at 09:42│Comments(0)
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