2023年12月22日
腸内細菌叢の変化について考える

以前、師走の時期になると便秘薬が売れるようになる・・・という話を耳にしたことがあります。その理由の一つとして、風邪の流行にともない風邪薬の服用との関係があるのでは・・・という説があるようです。
この便秘薬と風邪薬との関係には、腸内細菌が関わっていると考えられています。
腸内細菌叢と呼ばれる、腸内細菌の構成は、一定ではなく様々な要因によって常に変化しています。
その変化に対する大きな要因の一つと考えられているのが食習慣です。
食習慣といっても、あまりピンとこない方もいるかもしれませんが、国や地域の違いで考えると理解できるかもしれません。
日本とヨーロッパ、さらには米国や中国、インドなど世界中で考えれば、食習慣が違うということは、ある意味当たり前のことです。実際に、世界的な食習慣のデータベースを用いて分析した結果でも、各国同士の食習慣の類似性を示すようなものはないとも言われています。
そして、各国の食習慣の類似性が無いということと同時に、腸内細菌叢の菌種などの組成も国ごとで大きく異なっていることが、12ヶ国の健常成人の腸内細菌叢をメタゲノム解析によって調査した研究でも次第に明らかになってきています。
例えば、日本人の場合には相対的な存在比で多いのが、ビフィドバクテリウム属とブラウディア、バクテロイデスが上位3位を占める割合が多く、12ヶ国中もっともビフィドバクテリウムとブラウディアが多く、また、ペルーやベネズエラの人の腸内細菌叢はプレボテラ属が多く、ビフィドバクテリウムは少ないという結果になっています。
このような、腸内細菌叢の国や地域毎の多様性は、食習慣からもたらされる、遺伝子の差によって様々な酵素の有無などにも関わる共生微生物との共進化という考え方になってきているそうです。
よく知られているのが、海苔などの海藻類を分解するポルフィラナーゼという酵素の遺伝子の有無ですが、日本人の9割は保有していると言われています。
その一方で、この遺伝子については、多くの国の人は、海産物の生食や海苔を食べる習慣が無かったことからほとんど保有していないとされてきましたが、寿司を中心とした世界的な日本食の普及によって保有率は上がってきたとされています。
反対に、歴史的に乳製品を摂取する食文化ではない日本人が、ラクターゼの遺伝子が少ないために乳糖不耐症の症状が多く、結果腸管内の乳糖の比率が高くなるためにビフィドバクテリウムの割合が多いというようなことも言われています。
これらのように、食習慣が、腸内細菌叢に対して大きく影響を与えることはお分かりかと思いますが、いっぽうで、食習慣のみでは説明がつかない類似性があるということも指摘されています。
そこで、浮かび上がってきたのが、抗生剤を中心とした薬剤の使用です。順天堂大学医学部特任教授の服部正平氏によりますと、抗生剤使用のデータベースを食習慣と腸内細菌叢との関係性についてのデータベースと照合し分析した結果、抗生剤使用量の多い国とバクテロイデスの多いグループ、使用料の少ない国とプレボテラの多いグループとの相関性が高いことが分かったというのです。
さらに、この分析結果から抗生剤の使用は食事よりも腸内細菌叢への影響が高い可能性も示唆されています。
ニューヨーク大学医学研究科のMartin J.Blaser教授らの行った「ヒト細菌叢プロジェクト」でも紹介されましたが、抗生剤の使用量と肥満率が高い相関関係にある事などからも、薬剤による腸内細菌叢への影響は意識する必要があるのかもしれません。
前出の服部正平特任教授によれば、腸内細菌叢への影響は薬剤の影響が最も大きく、続いて疾患、年齢・性別・BMIなどの身体情報で、食習慣は4番目となるそうです。5番目以降に、生活習慣(喫煙・飲酒など)に続いて、運動がもっとも低いという結果になったと報告しています。
さらに、薬剤について、どの疾患治療薬が腸内細菌叢に大きな影響を及ぼすのかを検証したところ、 消化器疾患治療薬 糖尿病薬、抗生剤 抗血栓薬 循環器疾患薬 脳神経疾患薬、抗がん剤 筋骨格系疾患薬、 泌尿器・生殖器疾患薬、その他 (呼吸器系疾患薬や漢方薬) の順で影響が大きいという報告もあります。
なかでも特徴的だったのは、胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬 (PPI) 糖尿病治療薬のα-グルコシダーゼ阻害薬 (α-GI) との併用で、単剤使用と比較して腸内細菌叢の多様性が低下したというような事例もありますので、多剤による影響も考慮する必要がありそうです。
食習慣の改善を中心とした「腸活」や「育菌」という言葉も最近では耳慣れた言葉になりつつありますが、今回の研究結果のような状況を考えますと、食習慣はともかくとして・・・日頃からの体調管理に気を付けて、薬に頼らなくても良い生活を心掛けることが大切であるということになります。
とはいえ、日頃からの体調管理は食事・睡眠・適度な運動ということになりますので、これはこれで、「ニワトリと卵のような関係」なのかもしれません。
Posted by toyohiko at 12:50│Comments(0)
│身体のしくみ