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2024年03月07日

花粉症のリスクをあらためて考える

花粉症のリスクをあらためて考える

 春先と言えば、花粉症の季節という方も多く、花粉症の症状に悩まされている方は日本国内でも年々増え続けているようです。

 日本耳鼻咽喉科学会会報2020の報告によれば、国内の花粉症患者の数は、1998年の19.6%に対して、2008年は29.8%、更に2019年の調査では42.5%と急速な増加傾向にあり、現在では全体の4割以上の方が花粉の影響を受け、何らかの症状に苦しんでいるとされています。

 花粉症は、スギやイネなどの花粉に対して、免疫システムが過剰反応してしまう、代表的なアレルギー疾患の一つです。
 具体的な症状としては、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどをはじめとし、喉の乾燥や違和感、咳、喘息、呼吸困難のような上気道系に関する症状だけでなく、下痢、食欲不振、肌の痒みなども花粉症の症状と言われています。

 さらに、花粉症によって睡眠不足になってしまう人も多く、重症化した場合のQOLの低下は、不眠からくるイライラ、頭の重さなどが重なり、骨折や糖尿病に罹患したときよりも下がることが分かっているそうです。

 このような、花粉症の症状によるQOLの低下は、日常生活への影響が大きく、職場などでは、労働生産性のみならず、集中力を欠く・・などによる事故へのリスクの上昇も課題になってきています。
 特に、運転などの場合には、突然のくしゃみによっての事故の誘発など気を付けなければならないことも多いという認識も必要とされています。

 また、若年層の有病率の上昇も見逃せません、先の日本耳鼻咽喉科学会の会報2020によれば、スギ花粉由来花粉症の5~9歳の有病率が、1998年の7.2%に対して、2008年は13.7%、更に2019年では30.1%と約4倍になっていると同時に、若年層の花粉症は、アレルギーマーチと言われる食物アレルギーやアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患への連鎖の可能性も指摘されています。

 花粉症が増えている理由の一つとしては、花粉の飛散量の増加にあります。この飛散量の増加には、国内での木材需要の低下による、放置林化が進んでいることにも関係していると考えられています。

 杉の場合には、樹齢30年をこえる樹になると1本当たりの花粉飛散量が増えると言われていますが、この20年間で、杉林における30年を超える樹の割合が1970年には50万ヘクタールほどで、全体の2割弱であったのが、2017年には、400万ヘクタールを超えるという状況になり、全体の9割を超える状況にまでなっていることからすれば、当然のように花粉の飛散量は増えてしまいます。

 そもそも、人工林と呼ばれる杉林やヒノキ林は、戦後の拡大造林政策の影響もあり、森林面積の4割を占めるとも言われており、花粉飛散の問題も社会課題の一つとしての取組の必要性が議論されています。
 また、水源涵養と言われるような、山間地域の保水力の低下や土砂災害の遠因となっていることからしても、放置しておいてはいけない社会課題の一つとして取り組む必要がありますが、林業の衰退や建築材需要の減少などの理由によって遅々として進まないことからすれば、元々の自然を取り戻すという手法での花粉に対する発生源対策については、現状の花粉飛散量の増加傾向に対しても、指をくわえてみているだけになっているのかもしれません。

 そうであれば、そのような前提で花粉症のリスクを認識し、出来うる対策をしていく必要があります。

 国際医療福祉大学医学部の岡野光博教授によりますと、花粉症の症状が出始めたごく初期では、鼻粘膜にまだ炎症が進んでいないため、適切な治療を行えば粘膜の炎症を止め、早く正常化させることができます
 逆に重症化してからでは、薬が効きづらくなります。治療には、体への負担が大きい強い作用の薬が必要になったり、正常化させるまでに長い期間や多くの費用がかかってしまいます。すなわち重症化させないために早期の治療開始が望ましいとされています。

 花粉症に起因する食物アレルギーの事例も見られますので、食べ物によって症状が悪化することも認識する必要があります。

 例えば、トマトアレルギーに関しては、トマトのアレルゲン(たんぱく質)は、スギ・ヒノキ花粉のアレルゲンと似た構造をしているために、交差反応と言われるような、免疫システムの誤作動によるアレルギー反応を起こすことがあります。

 これらのように、タンパク質の構造が似ていることが原因によって、免疫システムが抗原とみなすこともありますので、食品をなるべく加熱調理することで、タンパク質の構造を壊すというリスクの回避が出来ます。
 ただ、大豆に関しては加熱してもタンパク質の構造が壊れにくいために注意が必要です。

 また、花粉症によって肌荒れを引き起こすことも解ってきました。これは、花粉が肌に触れることによって花粉のタンパク成分が、表皮細胞に取り込まれ、表皮細胞にあるトロンビンというたんぱく質が反応することで肌の状態が悪化してしまうのです。
 よって、春先の紫外線対策とともに日焼け止めクリームなどで肌を保護することも有効かもしれません。

 昔は、花粉症といっても、鼻水や鼻詰まりなどの軽微な症状を考えられがちでしたが、日常のQOLや社会の生産性の低下、さらには交通事故の誘発などの様々なリスクを考えれば、4割を超える人が症状に苦しんでいるこの状況は、個々の問題として放置して於けることではなくなっているのかもしれません。

 コロナ禍の状況下では、衛生仮説に基づくのであれば、今後様々なアレルギー症状の増加が見込まれると警鐘を鳴らす専門家も多いとされています。

 グローバルな社会課題の解決には、時間がかかるにしてもお腹の健康を含めた自身の免疫調整機能の向上など、出来ることはしてきたいものですね。





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